どさどさっ、と目の前に積まれる大量の書類の山。
驚いて目の前のイヴァンさんを見上げれば、なんだかとても素敵な笑顔を返されてしまった。
「イ、イヴァンさん…、」
「うん?どうしたの、」
「…これ、なんなんですか…?」
「何って、仕事だよ。の分。今日中に終わらせてね」
イヴァンさんはこともなげにそう言って見せるけれど、
私は昨日ようやく仕事を終わらせたばかりで、今日は休みの日のはずだ。
久々の休みだし、トーリスとフェリクスと一緒に買い物に行く約束もしてある。
「仕事って、昨日終わらせたのは…?」
「それは昨日の分でしょ?」
「でも、今日は私休みだって…」
「事情が変わったんだよ」
「で、でも……っ!」
尚も食い下がろうとして、イヴァンさんの目が笑っていないことに気付き口をつぐんだ。
「でも?」
「な、なんでもないですっ……」
「なんでもないってことは無いでしょ?」
誤魔化そうとしてみても、イヴァンさんに笑顔でそう聞き返されれば誤魔化しきるのは不可能で。
「…そ、その…、出かける約束、が…」
「約束? 誰と?」
「トーリスとフェリクス、です」
その名前を告げれば、イヴァンさんはきょとんとした顔で「あれ、って彼らと仲良かったんだっけ?」と聞いてきた。
「…まぁ、それなりには」
「それは知らなかったや。仲が良いみたいで羨ましいな」
「そ、そうですか…?」
なんと返せばいいのか迷って、結局曖昧な答えを返してしまう。
そんな私を気にせず、イヴァンさんはにっこりと笑って、
「でも、は真面目だから約束より仕事の方が大事だよね?」
と聞いてきた。
「…はい。」
否定できるわけなんて無いことを知っていながら、時折イヴァンさんはそうやって私をためす様なことを言う。
「分かってるなら良いや。明日も仕事があるから、何処にもいっちゃ駄目だよ」
「はい」
決まりきった肯定の返事を返すと、イヴァンさんはようやく満足げな表情になった。
逃がさないように
「全部終わったら、僕とお茶でも飲もうね」
「そうですね、楽しみです」
断れるわけなんてないのに、その返事を聞いたときのイヴァンさんの顔がとても嬉しそうで哀しくなった。