今の時間帯なら、きっと学食にいるのだろう。
そう思って、私は学食に足を向ける
昼の学食は混んでいたものの、彼の周りだけは驚くほど空いていたのですぐに見つかった。
プレゼントの箱を、自分の身体で隠しながら「ここに座ってもいい?」と聞くと、ブラッドは紅茶を飲んでいた手を止めて私をチラリと見る。
その視線(というより、身にまとう空気)がとても冷たいものに感じられて、一瞬だけ身体が竦んだ。
そんな私をおいて、ブラッドはまた一口紅茶を飲んでから「構わない。好きにしなさい」といった。
なぜか分からないけれど、今日のブラッドはすこぶる機嫌が悪いようだ。
ブラッドの正面の椅子に座ってから、今日のブラッドには何かが足りないことに気がついた。
辺りを見回してみても、いつもブラッドの傍にいるウサギさんが見当たらない。

「あれ、エリオットは? 一緒じゃないって珍しいね」
「今は補習を受けている」
「あ…そう」

悲しいくらいに会話が続かない。
こんな殺伐とした雰囲気の中でバレンタインのプレゼントなんか渡せるものか。
一度時間を置いて出直そうと、席を立とうとしたとき「そういえば」とブラッドが口を開いた。

「昨日は、随分楽しそうだったらしいじゃないか」
「…なに、が?」

落ち着いた口調なのに、それがひどくおそろしい。
昨日の私は、なにかブラッドを怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
普段と昨日で、違うことといえばたった一つしか思い当たらなかった。

「姉貴とアリスと一緒に、作ったんだろう? バレンタインのプレゼントを」
「なんで知ってるの」
「私の情報網を甘く見てもらっては困るな。私の部下達はとても優秀なんだ」

軽くストーカーまがいなことでも、ここまで堂々と言い切られると怒る気力もなくなってしまう。

「そりゃ作ったけど、それがどうしたっていうの」
「一体誰に渡すつもりだ?」
「……は?」

底冷えするほどの声で問いかけられて、呆れたような声が出た。
いや、誰にって、あなたですけど?
混乱する私をよそに、ブラッドはイライラとした様子で紅茶を飲む。
その所作はいつもの優雅そうなブラッドとは大違いで、私はこみ上げる笑いを抑え切れなかった。

「は…ははっ……あはははははっ」
「何が可笑しいんだ?」(じゃきん)
ごめんなさいっ!!

不機嫌そうな様子そのままで、マシンガンの銃口を突きつけられてしまったので慌てて謝る。
それでも頬がにやけてしまうのは止まらない。
こんな状況にも関わらずまだ笑っている私に呆れたのか、マシンガンの銃口が下ろされたのを感じて顔を上げる。

「あのさ、ブラッド」
「なんだ?」
「はい」

私の差し出したもの―可愛らしくラッピングされたバレンタインプレゼント―を見て、ブラッドが固まった。

「どうぞ、お納めください」
「…」

無言でプレゼントを受け取るブラッド。
今まで勝手に誤解していたことが恥ずかしいのだろう、その頬はじっくりよく見ないと分からない程度にではあるものの赤くなっている(。気がする)

「満足してもらえた?」
「…あぁ。………
「何?」
「ホワイトデーは何が欲しい?」
「じゃあ3倍返しでお願い」
「分かった」
「え!? ちょ、っと、冗談だって!!」

冗談で言ったことを真面目に返されて、慌てた。
この男に何か要求したらその分大変なことになるのは経験で分かっている。

「いやいや、いーよ別に。お返しとか欲しくてあげたわけじゃないし」
「それでは貰った私の立場がないだろう」

私の慌てっぷりにフッと口元を緩ませたブラッドに、背筋が凍る。
この笑顔はヤバイ!
慌てて退避しようとしたら、手を引っ張られて、
体勢を崩した渡しの耳元に、ブラッドの意味もなく色っぽい声が流れ込んできた。

「安心しろ。必ず満足させてやる」




                   (耳元で囁くな馬鹿ぁぁああああ!!)


「あー、やっと終わったぜ。…って何学食で騒いでんだ?」
「エリオットぉ!」(がばっ)
「おわっ!? ど、どうしたんだよ
「ブラッドが! ブラッドがぁ!!」
「ブラッドがどうかしたのか!? ……って、ブラ…ッド…」
エリオット」(ゴゴゴゴゴゴ
「…俺ちょっと用事を思い出しちまった! つーわけで、じゃあな!」
「え、ちょ、エリオットの裏切り者ぉぉおお!!!」



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