「わぷっ…」
「のわっ！」

トン、と身体に軽い衝撃が走って、すぐにバサバサと大量の紙のようなものが落ちる音がした。
誰かにぶつかった、と気付いたときにはぶつかった相手の子は手に持っていた紙を落とした後だった。

「わわっ、書類が」

小さく声をだして、慌てたように散らばった紙を集めている子は、良く見れば見知った顔で。
いつも科学班で忙しそうにしている子だと、思い当たったのはすぐ。
一度コムイに紹介された事があった――確かという名前だったと思う。

ふと足元を見ると、近くに書類が一枚落ちていた。
きっとが落としたもの（とはいえオレにも責任はあるんだけど）の一枚だろう。
そう思って書類を拾い上げると、の前に差し出した。
は書類を持ったオレの手に沿って目線を上げていくと、オレの顔を見た途端まぶしそうに目を細めた。
何だろう？と思いながらも、オレは笑顔で書類を差し出し続ける。

「あ…」
「はい、これも落ちてたさ」
「あ、あの、ありがとう」

はやっと書類に気がついたかのようにいそいそとオレの手から書類を受け取ると、
それを既にたくさんの書類であふれかえっている腕の中に収めた。
きちんと整理されていたのであろう書類は、いまやバラバラの状態での腕の中だ。
せめて順番通りに並べなくていいのか、と、ふとオレは思った。

「それ、順番バラバラだけど、コムイに怒られたりしねぇさ？」
「え、あ…そ、そうだね。順番、ちゃんとしなくちゃ」

オレに言われて、やっと気がついたかの様に、は自分の腕の中の書類をそろえ始めた。
けれど上手くいかないのか、とうとう床に書類を広げはじめる。

「えと、これが６ページだから……これが、こっちで……あれ…？」

そうブツブツと呟きながら、はページ数を確認したりしているが、それでも作業は思うようにいかないようだ。
床にしゃがんで書類を弄っているの姿が、あまりにも可愛らしくて、オレはつい笑ってしまった。
オレの笑い声を聞いて、の頬が赤く染まる。
自分の事を笑われるのは、理由がどうであれ、嫌なものだろう。
オレはもしかしたらを傷つけてしまったかもしれない、と不安になった。
というか、もともとはオレにぶつかって書類を落としてしまったのだ。
それを考えると手伝いもせずに見ているオレはなんて非常識なんだろう。
そこまで考えると、オレはの前にしゃがみこんだ。

「ぶつかったのはオレのほうだし、手伝うさ」
「でも、悪いよ。ぶつかったのは、わ、私が前を見なかったせいだし…」
「んー…でもオレだって前見てなかったわけだし、お互い様ってコトで」

少々強引かもしれないけれど、そう言い切ってオレは床に散らばった書類を整える。

「ほい、終わったさ」

に手出しをさせずに、書類を整え終わって、それをまた、差し出した。
が、小刻みに震える手でオレの持っている書類をつかんだときに、少しだけ、オレの手との手が触れ合った。
その途端、ボッ、と火が点いたようにの顔が赤くなる。

「あのっ、ありがとうっ」

はオレの手から書類を引っ手繰るように受け取ると、そう言ってオレが何も言わないうちに、そのまま走り去ってしまった。

一人廊下に残されたオレは、ポツンと立ち尽くしながらの走り去っていった方を見つめた。
気のせいかもしれないけれど、と触れた指先が、少し熱い。

オレ、もしかしたら、のコト、好きになってしまったのかもしれないさ。

そう、小さく呟くと何故だかとても恥ずかしいような気分になって、
今ならオレの顔、に負けないくらい赤くなってるな。と他人事のように、思った。




Amore di un ragazzo