ふらふらぐらぐら。
そんな擬音が聞こえてきそうな状態では科学班への道のりを急いでいた。
目の前に見えるのは書類の山。高くそびえたつそれは塔のようで前方の風景が全く見えないほどである。
よたよたとおぼつかない足取りで長い廊下を歩いていたとき、後ろから「…?」という声が聞こえて振り返った。

「ラ、ラビ君っ!?」

思わず声が裏返る。
ラビはの持っている書類の量を見て驚いた顔をしていた。

「見たことある後姿と思って声かけたけど…――これ、全部が運んでるんさ?」
「え、あ、うん。探索班、から、の、報告書、とか」
「これだけの量、女の子一人に運ばせるって…コムイも鬼さ…」
「で、でも、私、科学班に、入ったばっかり、だから。雑用、ぐらいしか、役、に立てない、し」
「物には限度ってもんが……」

呆れたようにしていたラビがふいにの持っていた書類の3分の2を奪い取った。

「オレも手伝うさぁー」
「え、えぇ!? 悪い、よ。ラビ君だって、つ、疲れてる、だろうし」
「オレ、今暇なの。それにこれを放っておくほど薄情じゃねェし」
「…ご、ごめん、なさい。…あり、がと、う」
「どーいたしまして」

ラビは笑顔で言うと、二人で廊下を歩き始める。

「そーいやこの前のすっごい書類もってなかったっけ?」
「この、前?」
「ぶつかったとき」
「あ、うん。私、普段は、書類整理、が仕事、で。ホントに、人手が足りなかったら、他の人の、お手伝いとか、も…」
「へー。専攻は?」
「化学、と、機械工学。だいたい、は、リーバー班長のお手伝い。時々、コムイ室長の、メカ作りとか、手伝ってる、の」
「え゛。ってことはもしかしてコムリンとか…」
「ちょ、ちょっと、だけ」

ラビの微妙な表情を見て、「で、でも、あんな風になる、って予想してなくてっ!」とは珍しく慌てて弁解した。
けれどもまだラビの表情は微妙で、は話題を変換する。

「ラ、ラビ君は、任務、は?」
「この前行った任務で大怪我しちゃって今は療養中さ」
「だ、大丈夫なの!?」
「んー、もう傷はふさがってっけど、大事をとってるだけで全然大丈夫」
「そう、なんだ」
「その任務が危険な割に収穫はたいしたこと無くて、さすがにがっかりだったさ」

そんな他愛も無い話をしている内に、二人は化学班についていた。

「室長、これ、探索班から、報告書です」
「お疲れーちゃん。ってアレ? ラビくんも一緒?」
「この量は女の子にはキツすぎさ」
「僕もそう思ってるんだけどね。人手がないんだよ」

コムイが困ったように笑いながら言う。
ラビはしばし何か考えていたが、突如手をポンとうった。

「じゃオレが手伝うさ」
「え!?」
「オレ、任務無いとき基本的に暇だし。別に問題ねーよな?」
「それはいいアイデアだ。うんうん、頼んだよ、ラビくん」
「へ、あの、」
「っつーことで、書類運ぶときは呼んでくれよー」

そう言うと、ラビは「んじゃ」という言葉を残して化学班を颯爽と去っていった。
後に残されたのは笑顔のコムイと混乱中の

ちゃん、良かったね。ラビくんが手伝ってくれるって」
「し、しつちょ、う」
ちゃんもラビくんもいい子だから、きっとお似合いだと思うよ」
「か、確信犯、ですか…!?」
「うん」
「……(鬼だ…!!)」

この日初めて、の目にコムイが鬼に見えた、らしい。




(あ、明日も書類整理よろしくね)(あ、え、は……はい)