最後にフィールドに立っていたノボリのオノノクスが、ばたりと力を失い倒れたのと同時。
「やったあああ!」
両手の握りこぶしを天へ突きあげて、はそう歓声を上げた。
「やったやったほんとに!?嘘じゃないですよね!?夢みたい嬉しい!!」
まさしく喜色満面。嬉しいという感情を包み隠すことなく全身で表現するかのように飛んだり跳ねたり落ち着かない。
そんな彼女を見ているとお決まりの口上を述べることもなんだか馬鹿らしく思えてきて、ノボリも素直に自分の気持ちを吐露した。
「――おめでとうございます、さま」
「ありがとうございますノボリさん!」
スーパーシングルトレイン49戦目、本気のサブウェイマスターとのバトルという一つの試練を乗り越えたの顔は見ている方が眩しく思うほどに晴れ晴れしいもので、負けてしまったノボリも自然と頬が緩みかける。
けれどサブウェイマスターとして、挑戦者の勝利を讃えるのも良いがこれで満足してもらっては困ると、ぐっと表情を引き締めた。
「ですが、これが終わりではありません。わたくしに勝ったといって気を抜くことのないよう、今後も新たな目標に向かってひた走ってくださいまし!」
「はいっ!勿論です!」
これまた素晴らしく良い返事が返ってきて、ノボリは今度こそ完全に頬を緩めた。
立場上もっともらしいことを言ってはみたものの、今までこのために努力を重ねてきた姿を見て、更にそれに協力してきたノボリからしてみれば、まるで自分のことのように嬉しく思ってしまうのも当然で。
「それにしても…、本当によく頑張りましたね」
半ば無意識に、の頭へ手を伸ばしていた。
それが触れるか触れないか、ぎりぎりのところでがぱっと身を引く。
「ちょっと、ノボリさん!」
「いかがなさいましたか?」
「今頭撫でようとしましたね!?」
「ええ、そうですが」
「もう、また私のこと子供扱いしてるでしょう!」
先ほどまでの機嫌のよさはどこへやら、むっと頬を膨らませて睨みつけてくる。
そんなところがノボリからすれば子供に見えてしまう原因でもあるのだが、ここでそれを指摘すればさらにがへそを曲げるのは目に見えていた。
「わたくしとしてはそんなつもりはなかったのですが…申し訳ございません、様」
「う…なんかそうやって謝られると逆に私の子供っぽさが引き立ってるみたいなんですけど」
即座に謝られて気勢をそがれたのか、は「大人の余裕が」だの「それに比べて私は」だのと口の中でもごもごとぼやき、最終的に大きくため息を吐いた。
「あーあ…早くノボリさんみたいな一人前の大人になりたいです」
「一人前の大人とおっしゃいますが、様はお一人で旅をされているわけですし、今でも十分一人前と言えると思いますが」
「いやいや、私なんてまだまだですよ…。少なくとも、ノボリさんに子ども扱いされないぐらいには」
再び、深いため息を一つ。すっかり落ち込んでしまったを一瞥して、ノボリは口を開いた。
「…一つだけ言わせていただきますと」
「はい?」
「わたくしがあなた様を子ども扱いしたことなど、一度もございません。ただ、あなた様のことを愛おしいと思うたびに、この手が勝手に触れてしまうのです」
「え、」
「いわば、わたくしにとってこれは愛情表現。これだけはご理解くださいまし」
真摯な眼差しで見つめられ、耐えきれずはふいっと顔をそらした。
そして、明後日の方向を向いたままで、ぽつりと小さなつぶやきを漏らす。
「…ノボリさん、ずるいです」
「ずるい?何がですか?」
「そういうこと言われたら、もう怒れないじゃないですか…」
髪を乱さないように優しくそっと触れられた手を、は拒まなかった。