科学の進歩は偉大だ、と思う。
ギアステーションにだって、ATOっていうすごいシステムが導入されてから、仕事の量は格段に減ったっていうし。
今じゃインターネットを使って、食料品も衣料品も、生活雑貨に至るまですぐにそろえられるなんて、なんて便利なんだろう!
それに、ちょっとした手を使えば一般人でも、睡眠薬だとか手錠だとか、そういったものを簡単に手に入れられる。
だから、そう。を監禁するのだって、ぼくが想像していたよりもすごく簡単だった。
夜道を帰るが、人通りの少ない道に差し掛かったのを待ってから「ねえ、ちょっといいかな」って声をかけて、振り返ったその瞬間に、鼻と口を薬を染み込ませたハンカチで塞ぐだけ。
抵抗する間もなく夢の世界へ落ち、ぼくの方に倒れこんだの身体を支えると、思っていたよりもずっと軽くて、なんだかすごく甘いような良い匂いがして、それだけでくらくら、頭が痺れたみたいになって、ああもう本当に、ってなんでこんなに可愛いんだろ。いつまでも、こうしてぎゅって抱きしめていたいけど、ずっとそうしてたら怪しまれちゃう、から我慢。どうせ家に帰ったら、誰の目も憚ることなくできるんだし!
よいしょ、ってをおんぶする。こうしたら、酔っぱらって寝ちゃったのを送ってあげてるみたいに見えるでしょ?
本当は空を飛ぶで帰れたら楽なんだけど、アーケオスにぼくとの二人を運んでもらうのはちょっと難しそうだから。まあ、こうやってると背中にの体温とか感じてすごく幸せな気分になれて、ぼくとしてはむしろこれで良かったのかも。
というわけで、無事誰にも見られずにの確保もとい誘拐にも成功して、あとはぼくの家に帰るだけ!それからのこと思うと笑いが抑えきれなくて、夜道でにやにや笑うぼくってなんか不審者みたい?ぼく、一応有名人だし、ぼくのこと知ってる人にこんなの見られたら大変なことになっちゃうかも。
サブウェイマスターの片方が不審者なんて、そんな噂笑えないよ、っていうかよく考えなくても知り合いに今の姿を見られたら困るわけで、ぼくはそそくさと帰路につくことにした。目指すは自宅、出発進行!…なんちゃって、ね。


コンクリート打ちっぱなしの地下室はひどく寒々しくて、こんな殺風景な場所にずっと居てもらうの、に悪いなって思ってるんだけど。
でも、コトが全部済むまでは、こういう部屋じゃないと汚れちゃうから、しょうがないよね。ここをいつまで使うかはに係ってるんだけど、って思ったよりも頑固で強情で、まだまだ時間がかかりそうだった。まさか、こんなに手こずるなんて、ね。ちょっと吃驚だったけど、うん、よく考えてみたらこっちの方が面白いかも!
だってどんな事でも、予想通りなんてそんなのつまらない。何に対しても本気じゃないと楽しくなんてない。誰だってそう思うでしょ?

「ほら、、起きて!」

ぼくの声に反応するように、壁に寄りかかっていたが顔を上げた。濡れて固まって、櫛の歯のようになった前髪の隙間、光を失わない瞳がぼくを睨んで、もし視線が凶器なら、ぼくもう殺されちゃってるかもねってぐらいに鋭いそれに刺し貫かれる。ぞくぞくする。どきどきする。わくわくする。だって、がぼくのことこんなに強く熱く見てくれてるの、これで興奮するなって、絶対無理な話。
の頬にこびり付いてパラパラに乾いた血に気づいて、舐めとろうと顔を寄せるとぼくの意図に気づいたのか、思い切り顔を逸らされた。
あーあ、そんなことしたって無駄なのにね。まあ、にはこれぐらいの抵抗しかできないから仕方がないんだけど。でも拒まれたことがショックだったから、それなりに力を込めて、のほっぺたを引っ叩いた。バチン、って大きい音がして、の首が横に思いっきり振れる。じわじわ、叩いたところが赤くなっていって、ああ、痛かっただろうなって他人事みたいに思った。

「ねえ、ぼくのこと憎い?きみを、こんな目にあわせてるぼくを、殺したいって思ってる?」

前髪をぐっと掴んでむりやり目を合わさせる。薄らと涙の膜ができたそれに、滲んでぼやけたぼくが映ってる。には今のぼく、どういう風に見えてるんだろう。
それが聞きたかったのに、は唇を噛みしめ黙ったままでつまんない。
手を放したら、重力に従うみたいに首ががくんと下を向く。拍子抜けするぐらいに反応がなくて、もしかしてそろそろ限界なのかもってぼくが思ったそのときだった。

「……して、…る」
「うん?」

小さな、ともすれば聞きのがしてしまいそうな声が聞こえて、聞き返したぼくを、いきなり顔を上げたの視線がギッと射抜いた。

「こ、ろしてやる…っ!」

憎悪とか怨嗟とか敵意とかそういうものを綯い交ぜにした詰め込んだ。まるでそんな声が食い縛った歯の間から絞り出されて、ぼくの鼓膜を震わせる、から、自分でも口元が吊り上るの抑えきれなった。
あ、ああああああああっ!可愛い、本当に可愛い、ぼくを殺したいって、それほどまでにぼくのことを強く強く想ってくれてるが好き、大好き。壊しちゃいたくなるぐらいに、愛してる。
逃げようとする足も、抵抗する腕も、邪魔だから切り落としたのに。それでも未だぼくを敵意の篭った強い視線が貫く。その綺麗な硝子玉が無性に欲しくて欲しくて堪らない。
そうだ、次はその目を抉ってあげよう。だって二つもあるんだから、一つぐらい無くなったって、大丈夫。最低限一つ残っていれば、その瞳にぼくを映すことはできるでしょ?なら、もう片方はもういらない、よね?
抉りだしたその球体を手の内で弄んで、舐め回して、握りつぶしてあげたら君はいったいどんな顔をするんだろうね?もっとぼくのこと嫌いになる?もっとぼくのこと殺したくなる?それとも、とうとう壊れちゃう?そのどれもが、楽しみで堪らない。
が壊れて、ぼくが居ないと生きられなくなっちゃったら、こんなとこからすぐに出して、のための部屋に移して、今度はいっぱいいっぱい可愛がってあげる。そのために、服とか装飾品とかお人形とか、凡そ女の子が喜びそうなものも用意してあるんだ!今だって十分楽しいけど、その後もそれが続くように、ぼくだってちゃんと考えてるんだよ。
だからね、ずっと、ぼくと一緒に遊ぼうね、