※ぬるい百合裏/深く考えたら負け
「失礼しまーすお届けものでーす」
ノックすら省略して、両手いっぱいに紙袋やらを提げたががちゃりと執務室の扉を開けた。
「、いつも言っておりますが扉を開けるときはノックをきちんとなさいまし」
「だって両手ふさがってたし」
ノボリの小言をしれっと流し、どさどさっとローテーブルの上に持っていた紙袋を置く。
はー重かった、と腕を回しながら零した愚痴に「おつかれー」と返して、クダリは首を傾げた。
「なに、が買ってきたの?」
「違う違う、二人宛の差し入れだよ」
「差し入れ?いつもより多くない?」
「この前二人雑誌の取材うけたじゃない。その影響でしょたぶん」
「ああ、そういえば今日ははやけに男性の利用客が多いと思いましたが、そういうことですか」
確か昨日がその発売日だったはずで、ならばそれを目にした一般客が一目この美人姉妹を見たいとギアステーションに挑戦しに来るのも納得できる。とはいえそのほとんどは二人に会うことすらできず敗退するハメになるのだが。
そうして正規の手段では困難だと悟った客が次に進む道は二つだけ。――曰く、廃人になるか、もしくは別の方法でアプローチをするか、だ。
この差し入れは別の方法を選んだ客によるもので、窓口などに届けられたりはたまた訪問者から直接手土産として渡されるそれらの中から開封されていない市販品を選び出して届けるのももはや日常業務の一つと化していた。どこのアイドルだとも思うが、下手をすればどこぞのアイドルより人気なのだから仕方がない。
相変わらず自分たちの知名度には興味がない様子の二人に半ばあきれながら、は紙袋の中身を手際よく取り出していく。
それは有名店のクッキーだったり、並ばないと買えないと言われている限定のプリンだったり、高級なチョコレートだったりして、重ねられていく中身にノボリがあからさまに渋面を作った。
「…呆れるほどに、お菓子ばかりですね」
「ぼくはお菓子好きだから良いけど」
「女は甘いモノが好きだろうっていう安直な考えなんじゃない?私も好きだけど」
「…まあわたくしも嫌いではないですけれど」
結局そこに落ち着く話題。ちょうどいい時間だし、休憩しようかという話になって、はいそいそと飲み物の準備を始めた。
「ただこれだけあるとまたクダリがお菓子ばかり食べるのかと思うと…」
「なにそれぼくそんなことしないし」
「嘘をおっしゃいまし!この前だってわたくしが買ってきたアイスを一人で全部食べていたではありませんか」
「あれはノボリが名前書いてないからじゃん!それに全部ったって元々二個だけだし!」
「普通二つ買ってあったら一つはわたくしのものに決まっているでしょう!」
「そんなの知らない!食べたかったから食べたの!」
「よくもまあいけしゃあしゃあとそのようなことを…!」
食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったもので、途端にはじまってしまった姉妹喧嘩を収めるために、は「はいはい、喧嘩はそこまで!」と言うと少々荒々しい手つきでカップをテーブルに置いた。
その勢いに押され、ぐっと矛を収めた二人に満足げに頷いて、「とりあえずこれ片づけないとね」と取り出したのは、見るからにおいしそうなプリン。
数があって日持ちもするクッキーなどは駅員室にでも置いて誰でも自由に食べられるようにしておくのだが、生ものとなればそういうわけにもいかない。
三人分のカップを用意して、ちゃっかりテーブルを囲む形で座るに、ノボリがはぁとため息を吐く。
「、仕事は?」
「今は休憩時間だから!いいじゃんこんなお高いお菓子自分じゃ買えないんだよー」
「どうせぼくら二人じゃ食べきれないしね、こんな量」
「ほら、クダリもこう言ってるし。ね、お願い!」
顔の前で両手を合わせ小首を傾げておねだりされてしまえば、ノボリが折れない道理はない。
抑々、ノボリ自身立場上仕方なくポーズとして注意をしただけで、とともにこうしてのんびりする時間は好きなのだ。二人きりならばなお良いのに、とは口にしない本音で、そしてそれはクダリも同様だ。
「ま、まぁ仕方ありませんね…」
「やった!ノボリだいすきっ!」
「ちょ、っと待ってノボリだけずるい!ぼくは!?」
「クダリも勿論だいすき!」
きゃいきゃいと騒ぎつつノボリの許可も出た所で、は用意しておいたスプーンをはい、と手渡し「で、どうやって分けようかこれ」と切り出した。
テーブルに乗せられたプリンは二つ、対するこちらは三人。一人一つというわけにはいかないし、等分にわけるにしてもずいぶんとやりづらい。
うーんと考え込んだノボリを尻目にクダリが明るい声をあげた。
「じゃあはぼくと半分こしよ?その代わりあーんってさせて?」
「え、私は全然かまわないけど、クダリはそれでいいの?」
「うん!ぼくと半分こしたい!」
「っ、でしたら!わたくしともあーんで半分こいたしましょう!」
負けじとノボリがそう主張して、クダリが頬を膨らませてノボリを見る。
「ちょっとノボリ真似しないでよ」
「クダリこそ抜け駆けなどわたくしが許すと思いましたか」
またしても険悪な空気になったその場をとりなすように、が口を挟んだ。
「あ、あー…二人ともから半分ずつもらったら私が一つ分食べることになっちゃうけどそれでもいいの?」
「ぼくはあーんってさせてもらえたらそれでいい!」
「わたくしもでございます!」
二人にそう即答されて、としては「そ、そっか」としか言いようがない。
自分が一つをたべるのならノボリとクダリでもう一つを半分こしたほうが早いんじゃないかとも思ったが、そんなことを突っ込める空気でもなく、結局は二人から交互にプリンを食べさせてもらったのだった。
そうやって少々波乱はあったもののしっかり一つ分のプリンを食べ終えご満悦のが「じゃあこれ駅員室に置いてくるね」そう言って余ったお菓子類を紙袋に詰めて出て行ってから数分後。
のんびりとコーヒーを飲みながらが戻るのを待っていた二人に、その異変が起きたのはほぼ同時だった。
「…ねぇ、ノボリ。なんか、ぼく、変…かもっ」
「クダリ、も…ですか。わたくしも、さきほどからっ…すこし、」
漏れた息はひどく甘ったるい響きを孕んでいた。身体が熱い。少し体を動かしただけでもぞくぞくという疼きが全身を襲った。
はっきりとは言えないが、こんな症状が起こりうることと言えば一つしか考えられず、更に二人同時ともなればその原因は明らかだった。
クダリが珍しく、笑顔を引っ込めてノボリに瓜二つに顔を顰める。
「ほん…っと、悪趣味…っ…!」
「悪戯にしては少々、…っふ、度が…過ぎて、おります」
ここまでくれば先ほどの差し入れに何か盛られていたと考えるのがごく自然で、あれほど開封済みかどうかのチェックは厳しくするよう言っておいたのに、とノボリは眉を寄せた。
普段の倍以上もある量に甘くなったチェックの隙を運悪く抜けてきてしまったのだろうとは予測できるが、なぜよりにもよってこれがという意識も拭えない。
更にこの状況でノボリの焦りに拍車をかける要因があり、それを指摘するようにクダリが口を開いた。
「、迎えにっ…行かな、きゃ」
それにノボリも無言で頷く。二人と同じものを食べているもいまこの症状に見舞われていることは簡単に想像できた。そんな状態の彼女をほかの駅員などに見られてしまったら、考えただけでも怒りで頭が真っ白になりそうだ。
二人そろってソファーから立ち上がったその時、がちゃ、と再びノックもなしに扉が開いて、それに凭れ掛るような姿勢でが室内に入ってきた。
「!」
「だい、じょうぶっ!?」
ばたばたと駆け寄る二人に、は小さく首を振るとずりずりと膝から崩れ落ちた。
「う、あっ…、…おねがい…たすけ、てっ…!」
ぼろぼろと涙を零しながら床に座り込んだに上目遣いで見つめられ、ノボリとクダリの理性はいとも簡単に焼切れた。
広いギアステーションの片隅、仮眠室として設けられて一室に、その場に相応しくない嬌声と水音がひっきりなしに響き渡る。
さすがに執務室でコトに及ぶわけにはいかないと、なけなしの正常な思考を総動員してそう判断を下したノボリとクダリはすでに一人では歩くことすらままならないを支え、どうにか仮眠室へと連れ込んでいた。
仮眠室とはいっても、立場上どうしても頻繁にギアステーションに寝泊まりすることの二人のために確保されている部屋で、それなりの防音設備も整っている上に、鍵をかければ突然誰かが入ってくるという心配もない。
「ひあっ…!や、んん、…っは、あっ、ん!」
「、かわいっ…、ん、」
「…っふ、う、……、こちら、をっ…向いて、ください、まし」
ベッドに腰掛けたを後ろからノボリが支え、クダリは両足の間に身体を割り込ませ、の秘部を執拗に愛撫する。
を煽るようにくちゅくちゅという粘着質な音を態とたてて、思い出したかのように敏感な突起を撫でて新たな嬌声を生む。その傍らクダリ自身の秘部に埋めた左手も休みなく動かし続けており、主に室内に響く音の音源はこの二人だ。震える内腿に戯れに真っ赤な痕を残しては、それに興奮してお互いに身体を熱くさせているのだから世話がない。
一方ノボリは、素直に快感を享受してびくびくと跳ねるの身体を片手でそれとなく抑え、もう片方の手での胸を揉み、時折先端をぐりぐりと刺激すると一層高い声があがる。の身体を抱き込むかたちで、のけ反る背中に自分の胸を押し当てて、火照る自身も同時に慰めた。半分開いた口に強引に口づけて舌を絡ませるとどちらのとも知れぬ抑えきれない吐息が漏れた。
三人が三人、冷静な判断を奪われた状況で、この歪な行為を止める人間などいるわけがない。
「あっ、…っく、ん、ふあっ…!ぃ、ああああっ!」
「ぼく、もっ、…もう、無理、…んんっ!」
「、、…はぁっ…、ひっ、…っく、うあっ!」
意思とは無関係に身体の痙攣が止まらない。一度達してしまったせいですぐさま高みへ上り詰めるが、それでも薬の効果は収まることなくもっともっとと求め続ける。未だ果ても終わりも、見えそうにない。
永遠に溶けて混じる