今日は久々のお休みをもらった。それが嬉しくて、昨日の夜に電話をしたらちょうど私も休みなんだーっていうから遊びに誘ったらいいよって快諾してくれた。
だから今日はぼく、いつもよりずっと早起き。ノボリが呆れて「仕事のときもこれほど早く起きてくださればよいのですが」って言うぐらい。
何着ようかなって、クローゼットからいっぱい洋服出して、ああでもないこうでもないって悩む。
この前と一緒に出掛けた時に買ったスカートにしようかな。にすっごく似合ってるねって言ってもらえたし!
下は決まったから今度は上、何着か候補を出して、ノボリのいるリビングに駆け込んだ。

「ねえノボリ、これとこれだったら、どっちの方が似合う?」
「クダリっ!そのような格好でうろうろしてはいけないとあれほど…!」
「今はそんなこと良いの!ねえどっち?」

そのままだったらまた小言が始まっちゃうから、ノボリのセリフは無理やりシャットダウン。
はぁ、って溜息を吐いたノボリは少し考えてから「右、でしょうか」と答えた。

「右だね、分かった!」

それを聞いて、バタバタとまた自室に戻る。一通り着替えてから、姿見の前で一回転。うん、大丈夫!
ようやく着替え終わったから、ノボリが作ってくれてた朝ごはんを食べにリビングへ。
コーヒーを飲みながらのんびりニュースを見ていたノボリは、ばっちり着替えを済ませたぼくを見て不思議そうに口を開けた。

「随分と気合が入っているようですが、今日は様とお出かけするのではありませんでしたか?」
「そうだよ!だからぼく本気だしてる!」
「はぁ、そうなのですか…?」

ノボリが釈然としない顔で首を傾げてる。ノボリ、全然わかってない!とデートなんだから、気合入れるに決まってるのに。
その時、わくわくしてるぼくの気分に水を差すようなことをノボリがぽつりとつぶやいた。

「それにしても、様のお仕事も休みは少ないとお聞きしておりますが」
「うん。そうみたいだけど」
「よく様と約束を取り付けることができましたね」
「なんで?休みが重なったからでしょ?」
「いえ、確か様には彼氏がいらっしゃるとお聞きしたのですが」

普通は、たまの休みは彼氏との時間を過ごしたいと思われるのではと思いまして。
そう続けたノボリに、悪気があったわけじゃない。そんなことはわかっているけど思い知らせるようなことを言うノボリが憎らしくて、油断しきってるノボリの頭を思いっきり叩いた。

「そんなの…ぼくが知るわけない!ノボリの馬鹿!」
「痛っ!?クダリ、何をするのです!?」

怒るノボリを無視して、ボクは荷物を持つとそのまま家を飛び出す。
に会ったらこんな嫌な気持ちもどこかに行くに決まってる、そう思って待ち合わせ場所に急いだ。


ぼくがついてから、暫くしてがやってきて、もう待ってるぼくをみて驚いてた。
どうしたの?って聞かれたからノボリと喧嘩したって答えたら、仲直りしなくちゃだめだよって怒られちゃった。
ノボリのこと、まだちょっとムカついてるけど、の可愛い怒った顔見られたし許してあげてもいいかな。

「じゃあ行こっか」

自然との手を引いて、歩き出す。今日の予定は、ライモンをウィンドウショッピング!
時間とタイミングが合えば、ミュージカル行ったりリトルコート行ったりしてもいいねって昨日電話で予定を立てた。
とのお出かけはどこに行っても楽しいから、ぼくはどこだっていいんだけど!
そう思ってたのに、ぼくはすぐに違和感を感じた。今日はなんだかいつもみたいに楽しめない。
どうしてだろうって考えて、すぐに原因は見つかった。
ぼくと買い物してるときも、歩いてる時も、暇さえあればはライブキャスターを触ってる。そんなときに話しかけても、生返事しかもらえなくてぼくつまんない。
ぼくといるの楽しくないのかな。なんでずっとライブキャスター弄ってるんだろう。
とライブキャスターを交互にちらちらと見ていたら、ようやくそれに気付いたのかがぼくの方を見た。

「あ、ごめんねクダリ」

そう言って、はライブキャスターをカバンの中にしまう。

「っううん、ぼくは大丈夫だけど。なにしてたの?」
「あー…ちょっと彼氏とメールしてたんだけど止めどきが無くて…。あ、でももう終わったから!ほんとごめんね!」

謝るの声、半分ぐらいしか聞こえなかった。予想はしてたけど、やっぱり彼氏と連絡取ってたんだ。今はぼくと一緒にいるのに、彼氏なんかと。
ぼくより彼氏の方が大事なの?ぼくはやっぱり、にとってはただの友達なの?
そんな思いがぐるぐる頭の中を回り続ける。
悔しい。すごく悔しい。だって絶対ぼくのほうがのこと大事に思ってる。のこと幸せにできるのに。
、そいつとキスとかしたのかな。キスよりもっと先のことも、しちゃってるのかもしれない。そこまで考えて、胃の中の物を全部吐き出したくなった。

「もう、キスとか…したの?」
「ええー?気になるの?」

顔を覗きこまれてドキッとする。まるで、ぼくの考えを見透かしているような目。動揺してしまったのを隠すように、早口でまくしたてた。

「ん、ほらぼく彼氏とかいたことないから!どういうのかなってちょっと興味ある、かも」
「そっかー。でもごめんね、私もまだキスとかしてないの。手を繋いだくらいかなぁ」

参考にならなくてごめんねって、悪戯っぽく笑いながらは言う。
まだしてなかったんだ、良かった。気づかれないように、安堵の息を吐いた。
でもぼやぼやしてたらぼくの知らない男に、ぼくのが汚されちゃう。そんなの許せない。
ぐるぐるぐる、思考が回る。気持ち悪い。足を動かすことすらできなくなってぼくは立ち止まってしまう。
心配そうにぼくの顔を覗き込むを見たら、もう我慢なんて出来なかった。

「ねぇ、ぼくじゃだめ…?」

自分が何を言っているのか、それすらもわからない。

は、ぼくと彼氏だったらどっちを選ぶの?」
「え…クダリ、何言ってるの?」
にとってぼくはただの友達?ぼくじゃの一番になれない?だったらぼく一生懸命がんばる。駄目なところも全部なおす。だから彼氏じゃなくてぼくを見てよ」
「クダリ、…なんか変だよ?何かあったの?」
「だって、だって…ぼくの方が、そんな男よりずっとずっとのこと愛してるのに!」

勢いのままそう口走ってしまって、はっと気づいた時にはもう遅かった。
がぼくを見てる。驚いた顔してる。どうしよう、こんなこと言うつもりなかったのに。

「ごめっ、ぼく…その、そういうつもりじゃなくて…!……いっ、今の忘「クダリ」

言い訳しようとしたぼくを、が制した。の手がほっぺたに添えられて、目線を合わせられる。
ぼくを見上げてくるは、今まで見たこともない女の顔をしていた。

「やっと言ってくれたね、クダリ」
「え」
「ずっと、クダリがそう言ってくれるのを待ってた」

が笑う。小悪魔みたいに、妖艶な笑顔。初めて見るその表情に、くらくらしてきちゃう。

「私も、クダリのこと愛してるよ」
「ほんと…?」
「うん。クダリに嫉妬してほしくてわざわざ彼氏も作ったのに、クダリ全然なにも言ってくれないんだもん。私のこと興味ないのかなって不安になっちゃった」

ぺろっと舌を出して、今度は悪戯が成功した子供のような顔。
ぼく今まで知らなかった。ってほんとは策士だったんだ。
でも騙されたっていう感覚はなくて、むしろそんな一面を見せてくれたことを嬉しいとすら思ってしまう。
これからはもっともっとたくさん、ぼくが知らないところも見せてほしい。それもぜんぶひっくるめてのことを愛す自信があった。