「うわ、文次郎」
「うわとはなんだ」
「いや、だってこんな所で会うとか思わないじゃない」
こんな所、というのはゲームセンター。
UFOキャッチャーなどから流れる電子音やジャラジャラというメダルの音、
そしてそれに負けず劣らず大音量で響く店内BGM。
文次郎はこういうの嫌いそうだと思っていたからこそ、偶然であったときはそれはもう驚いた。
っつーかゲーセン来る暇あるなら寝ろ、と目の下の隈を指差して言うと、
俺だって好きで来てるんじゃねぇよ、ってか指差すな!と言ってはたかれた。
「好きで来てるんじゃないって、じゃあ何で?」
「罰ゲームなんだよ……」
苦々しい顔で吐き捨てるように言った文次郎はすたすたと歩き出す。
別に一緒に来たわけじゃないけれど、置いていかれるのは癪だったので慌ててついていった。
「罰ゲーム? 何、食満と勝負でもして負けたの?」
「食満じゃなくて仙蔵だ。俺が食満なんかに負けるか!」
「食満には負けなくても仙蔵には勝てないって自分でも認めてるんだ」
「ちげぇよ! ただ昨日はちょっと調子が悪かっただけだ」
「そういうのを負け犬の遠吠えと人は言…いったぁ!」
うるせぇ!と再びはたかれる。
「いくら図星だからってか弱い女の子の頭をぱかすか叩くな!」
「はっ、か弱い女の子がどこにいるって言うんだ」
「ここよここ!」
「てめぇはか弱いんじゃなくて図太いんだろうが!」
「自覚はある!」
「あるのかよ!!」
びし、とするどい突っ込みが入ったところで目的の場所に着いたらしく文次郎の足が止まった。
その場所は、店内でもちょっと奥まったところにある、いわゆる美少女フィギュアのUFOキャッチャーの前で。
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ドン引きしている私をよそに文次郎は「一回200円って高すぎねぇか…?」なんて呟いている。
「ご、ごめん。私ちょっと用事があるんだった……。
大丈夫、文次郎が美少女フィギュアオタクだったなんて誰にも言わないから…!!」
「はぁ!? おいちょっと待て!」
適当な理由をつけて逃げようとしたら腕をがしりと掴まれた。
「いやぁああああ!! ほんとに誰にも言わないから!
趣味は人それぞれだって知ってるし! ね、だから離して!!」
「ばっ…ちげぇよ!!」
「何が違うの!? ま、まさか美少女趣味なんじゃなくロリコンとか!?
いやほんとそういうカミングアウトは同士の前でしてちょうだい!」
「だから違うって言ってんだろうが! 人の話を聞け!」
文次郎の言葉は無視して口を開こうとすれば、そうはさせまいと拳骨が振ってきて、あまりの痛さに声が出ない。
あってものの10分もしないうちに頭を3回も攻撃するなんて、この男は手加減と言う言葉を知らないのだろうか。
「この人形を取ってくるのが罰ゲームなんだよ」
「…それはキツイ……買っちゃ駄目なわけ?」
「俺もそう思ったんだが、この人形ゲーセンにしかないらしい」
「へぇ。なんでまた仙蔵はそんなことを知って……はっ!まさか仙蔵の方がフィギュアオタク!?」
「違うだろ。絶対嫌がらせに決まってるじゃねぇか」
「ですよねー」
「お前といると無性に疲れる……」
はぁ…なんてため息をつきながら、文次郎はちゃりんちゃりんと小銭をUFOキャッチャーに入れた。
軽快な音楽が流れUFOキャッチャーが起動するけれど、アームが動く気配は一切無い。
不思議に思って文次郎を見ると、奴はすでに自分の仕事は終わったとばかりに機体を見ているだけだった。
まさかそれは無いだろうと思いつつ、脳裏によぎった疑問を口にする。
「文次郎。UFOキャッチャーの経験、ある?」
「ねぇ」
即答された。
「あんた本当に現代っ子ですか?」
「どういう意味だそりゃ」
「そのままの意味で取れ!
UFOキャッチャーを見てるだけで景品が取れるなら誰も苦労しないわよ! ボタンおして自分でアーム動かすの!」
ほら!と言って見本を見せると、
おお!なんて声をあげている文次郎はまるで初めて使う携帯電話の機能に感激するおじいちゃんおばあちゃんのようで。
仙蔵がどうしてこんな面倒くさい罰ゲームにしたのかがなんとなく分かった気がした。
「仕方ない…私が手伝ってあげる。このままじゃ日が暮れても…っていうか一生かかっても取れないよ」
自分でもそれは薄々感じていたのか、文次郎は悔しそうな表情をしながらも頷く。
「その代わり、後で駅前のケーキ奢ってね?」
「……仕方ねぇな、今回だけだ!」
「っし! じゃあそういうことで契約完了ね!」
思わぬところで思わぬ約束を取り付けられたことに喜びつつ、目の前のフィギュアを手に入れるべくUFOキャッチャーにお金を投入した。
愛すべき日常