ずっとパソコンの画面を見つめていたせいで目がかすんできた。
椅子の背もたれに体重をかけ、背伸びをしながら瞬きをするとじわりと涙が滲む。
「終わった?」
横で延々と脱脂綿を消毒液につける作業を繰り返している伊作の問いにはうめき声で答えておいた。
「早くしないと学校から締め出されるよ」
「分かってるけどー……なんで生徒が保健だよりなんか作らなきゃいけないの? 教師がやれよ!」
「そんなこと言ったって仕事だから仕方ないじゃないか」
人間、自分の愚痴に正論で返されるとカチンとくるもので。
キッと伊作を睨みつけて思いっきり嫌味を言ってやった。
「あーもう保健委員うぜぇええ!
やっぱ保健なんかじゃなくてもっと楽そうなとこにすればよかった!」
「それを委員長の僕の前で言う?」
「だってさー、保健委員とかって身体測定と健康観察簿ぐらいしか仕事無いと思ってたんだもん。
それがふたを開けてみたら、トイレの石鹸交換とか保健室利用者名簿とか保健だよりつくりとか、仕事多すぎでしょ。これは詐欺だ!」
「委員会決めの時、僕はちゃんと説明してたと思うんだけど」
「そんなの聞き流してるに決まってるじゃん!」
「人の話を聞こうよ……」
「私がそんな人間でないことは百も承知のはずだけど?」
「いや、そんな自慢げに言われても……」
困ったように笑う伊作に、文句あるなら伊作がやってよ、とパソコンを指差すと僕には僕の仕事があるから。と返される。
「ちぇー、伊作の薄情者ー」
なんて軽口を叩いてみたけれど、既に脱脂綿は有り余るほど出来上がっていることぐらい私は気付いているし、
委員長の仕事にそんな項目がないことも知っている。
私の作業が終わるのを待ってくれているのに、自分からは絶対に言おうとしない伊作の優しさに感謝して、ラストスパートをかけた。
結局あの後伊作の固有スキルである不運が発動して、(突然パソコンの電源が落ちたりね!)
完成したのは学校が閉まる30分前だった。
「お、わったー!!」
「お疲れー」
「その言葉はそっくりそのまま伊作に返すよ」
喚起の声をあげる私にねぎらいの言葉をかけてくれた伊作は、
短時間の間に転んだり上から薬瓶が落ちてきたりしたせいでびっくりするぐらいにボロボロになっている。
「まぁ、慣れてるから大丈夫だよ」
「慣れるなよ」
「はは…。あ、一応確認するからパソコンの電源切らないで」
「りょうかーい」
椅子から立つだけでごきごき鳴る身体をほぐしながら、パソコンを覗き込む伊作に冗談を飛ばした。
「お願いだからデータ消したりしないでよー」
「あはは。いくら僕でも流石にそれは………あ」
「え、」
伊作の声が不自然に途切れる。
まさかと思って伊作のほうを振り返ると、伊作はなんとも申し訳無さそうな表情でパソコンの画面を差した。
「…電源、落ちたみたい」
「………っこの馬鹿ぁあああああ!!!」
保健室常駐班
結局保健だよりは作り直しになり、伊作にはパソコン使用禁止令が出されました。