1学期に1回訪れる忍術学園が荒れに荒れる日。そう、予算会議。
一癖も二癖もある各委員会の委員長が予算を求めて繰り広げる仁義無き戦い…、
といえば大げさすぎるかもしれないが、本人達はどこまでも本気だ。
そして彼らを迎え撃つ会計委員長、は現在進行形で痛む胃と戦っていた。
元々大人しい性格のにとって、予算会議は過酷過ぎる。

「…先輩、大丈夫ですか?」

傍にいた後輩が、の顔を覗き込む。
その心配そうな顔に「大丈夫だよ」と返して、は『私がしっかりしなきゃ!』と気合を入れた。

「団蔵、次はどの委員会?」
「次は…、………げ」

外の様子を窺っていた団蔵が苦虫を噛み潰したような表情での方を振り返る。
その意図が分からずが首をかしげたのと同時に会計委員室の障子が開けられ、入ってきた人物には固まった。

「次は作法委員だよ」
「……兵太夫」

予算案片手に(表面上は)にっこりと笑っている兵太夫を筆頭としてぞろぞろと入ってくる作法委員の面々。
の後ろでちょこまかと動いていた会計委員の後輩達が「ひぃ!」と悲鳴を上げてバリケードの奥に隠れる。
可愛い後輩達を危険に晒すわけには行かない。
は死地に赴くような気分で兵太夫の前に立ちはだかった。

「で、これは一体どういうことなのかなぁ、
「何か問題が?」
「どうして作法委員の予算がこんなに少ないんだい?」
「毎回言ってるけど、必要経費以外の新規の研究費とかその他雑費は認められないの」

兵太夫の迫力に気圧されそうになりながらも、も負けじと反論する。

「…へぇ?」
「…っ!」

兵太夫の笑顔が一層深くなって、は思わず一歩後ずさった。

「ねぇ、
「な、何? 兵太夫」
と僕は付き合ってるんだよね?」
「…そ、そうね」

ざわり、と部屋の中が騒がしくなる。
団蔵は知っていたからいいとして、後ろの後輩達が、

「作法委員長と会計委員長が付き合ってるって噂は本当だったんだ!」
「知らなかった…」

なんて話しているのが聞こえて、の顔が赤らんだ。

「だ、だから、何?」
は僕の事好きなんだよね?」

一応は疑問系を取っているものの、その裏には肯定以外を認めないという本心が見え隠れしている。
無言の圧力をひしひしと感じながらもは恥ずかしさで言葉に詰まった。

「…うう……い、言わなきゃ駄目なの?」
「あれ? まさか言えないなんて言わないよね」
「や、だって……ほら、他の人が…。っていうか、今はそれ関係ないよね!?」
「関係無いわけないだろ。
だっては恋人の頼みも聞けないみたいだから、今ここでちゃんと僕の事が好きだって確認しておかないと」
「なっ……!」
「兵太夫、お前それは卑怯、」
「僕は今と話してるから、団蔵は黙っててくれないかな」
「っ…!」

の援護をしようとした団蔵も、兵太夫の一言であえなく撃沈する。

「…う、ううううう……」
「ほら、。早く言いなよ」
「………す、好き、だよ?」
「なら恋人の頼みくらい聞けるよね?」
「ええええ!?」

真っ赤な顔でどうにかこうにか口にしたに、全く笑顔を崩さずに兵太夫そう告げた。

「ま、待って、言ったらそれでその話は終わりじゃないの!?」
「僕はそんなこと一言も言ってないよ。勝手に勘違いしたのはの方だろ?」
「だ、だって…!」
は分かった、って言えばいいんだよ」
「…………わ、分かった…」
「おい!?」

反射的に頷いてしまったに、慌てて団蔵が声をかけたが、に今にも泣きそうな目で睨まれる。

「しょうがないじゃない私が兵太夫に勝てるわけないでしょ!」
「その通りだよ。良く分かってるじゃないか」
「…作法委員会の、予算増額を認めます。……こ、これで良いでしょ…?」
「うん。良く出来ました」

の頭を満足げに数回撫でてから、兵太夫はくるりと踵を返す。
そして障子を開いてから、何かを思い出したかの様にの方を振り返った。

「あ、そうだ
「な、何?」
「ちょっと話したいことがあるから、夜になったら僕の部屋に来て。じゃあまた」

絶望的な表情のを置いて、兵太夫は颯爽と会計委員室を後にする。
残されたは、そのままずるずると床にへたりこんだ。






     





「…団蔵」
「…なんだ?」
「……私、絶対に来期は委員長しないからね」
「……」