「この学園で、火器・火薬に強いといえば?」

見ていた本を傍らにおいて目の前の綾部に問いかければ、
彼は穴を掘る手を止めてこちらを不思議そうな表情で見た。

「どうしたの、突然」
「いいから。この学園で火器・火薬に強いといえば?」
「三木ヱ門、6年生の立花先輩。…あと、火薬委員の久々知先輩。」
「だよねー。私もそう思う。」

淡々とあげられたは私が考えていたものと全く一緒で、やっぱりそうだよね。と一人納得する。

「でも立花先輩は怖いし、っていうか先輩にわざわざ頼むのもなぁ…。よし、やっぱ三木のとこか」

呟いて、本を手に立ち上がれば「どこにいくの」と綾部に声をかけられた。

「どこって、三木のとこだけど」
「なんで」
「なんでって、これ」

綾部に今まで読んでいた本を見せる。
[火器の扱い方]と書かれたそれは、宿題の為に今しがた図書室から借りてきたものだ。
実際借りてきたはいいものの内容が高度すぎて私にはさっぱり理解できないから、
誰かにわかりやすく噛み砕いて説明してもらおうと思って。
そう言うと、綾部が(無表情なこの男にしては珍しく)かすかにだけれど眉をよせる。

「なんで、三木ヱ門なのさ」
「だから火器火薬に強いといえば三木でしょ。綾部もそういったじゃない。
そりゃ先輩もいるけどさ、やっぱ聞きにくいし」

理由を言ってもまだ綾部は不服そうな顔でこちらを見ていて……というか睨みつけられている気がするのはきっときのせいじゃないはずだ。
綾部が何にたいして怒ってるのかがまったくもって分からない私はただ首をかしげるばかり。
そんな私に綾部ははぁ、とため息を吐いて。

「僕が教える」
「…綾部ってそっちらへん得意だったっけ?」
「少なくともよりは分かると思うよ」
「失礼な!」
「僕より出来る自信あるの?」
「くっ……言い返せない…!!」
「ほら、行くよ」

差し出されたのは土だらけの手。

「…?」
「ん」
「ちょっとちょっと、綾部さん」
「なに? はやくしないと教える時間なくなるでしょ」
「握れと?」
「それ以外になにがあるの」

ぴしゃりと言い切られて言葉に詰まる。
握れたって、アンタの手は土だらけでしょうが!
とは、今から勉強を教えてもらう身としては口が裂けてもいえないもので。
仕方なく手を握り返せば、綾部の表情が少し緩んだ気がした。





Eifersucht