「愛しのちゃーーーゲファッ!」
そう叫んで奴は星になった。
「いやぁ、ちゃんはいつも手加減が無いね」
確かにたった数分前に車で撥ねさせていただいた、奴こと折原臨也はなぜか怪我一つない元気な様子で、
こにこと笑顔を(曰く気色悪い笑顔、らしい)浮かべながら軽やかにスキップなどしつつの元へと訪れる。
そんな臨也には心底嫌そうな顔をして、ため息をはいた
「私はアンタを四輪駆動車で撥ねて闇へと葬ったつもりなんだけど、
どうしてそんなにピンピンしてるのかなぁ臨也君」
「どうしてってそれは俺のちゃんへの愛が為せる技で――
い、痛、ちゃん、流石の俺も傘の先で突かれたら痛い、っていうかその傘、妙に先が尖ってるんだけど!?」
「セルティ経由で新羅から護身用に送られてきた物だからねぇ。なんでも、上手く刺せれば羆一匹は軽く仕留められるらしい」
「池袋にいるのに羆と戦える武器なんて必要ないだろう!?
それにそんなものなくても俺がちゃんを護ってあげるから大丈夫☆」
「お前が一番危ないんだ馬鹿。というか語尾に星をつけるな見苦しいというかウザキモい」
「いつになく辛辣なちゃんも素敵だよ…!!」
冷たく接するのはどうやら逆効果だったらしく、臨也はを見て眼をキラキラさせている。
心底に酔っている臨也にしてみれば、からかけられた言葉は全て愛の睦言に変わるというものだ。
にしてみれば迷惑なことこの上ないし、
どんな目に合わせても引かない、というのははっきりいってそこらのストーカーよりも性質が悪い。
は何度も警察に頼ったりしたのだけど、臨也が警察上層部のコネを持っていない訳が無く、
いつも数十分後には笑顔を顔に貼り付けての前に現れるわけである。
「本っっっ当に、何で私、アンタと同じ学校に行ったのか…。もし今当時の自分がココに居たら殴ってでも止めさせてるわ」
「逆に俺はおかげでちゃんと会えたんだから当時の自分を褒めてあげたいぐらいだよ」
「あぁもうその声聞いただけでストレスが溜まるからとりあえずあともう一回轢かせろ。
そして私の前――いや、この地球上から存在ごと消滅しろ」
とうとうストレスが臨界点を突破したは、愛車のエンジンをかけるべく鍵を取り出した。
それを見た臨也がその手から鍵を奪い去る。
「…返せ」
「流石の俺でも一日に二回も四駆に轢かれたらちゃんに会えなくなっちゃうかも知れないから」
「私としてはそれを心の底から望んでいるんだけど。……分かった。轢くのは止めてあげよう、鍵を返せ」
「うん」
の言葉ににっこりと笑って、臨也はへ車の鍵を返した。
因みに返すときにさりげなくの手に触れるのは忘れない。
「さてと……それじゃあ臨也君」
「なんだい、ちゃ…ゲブゥッ!!」
の呼びかけに臨也が応えきる前に、は臨也の顔面をグーで殴り飛ばした。
「な。何するんだい!ちゃん!!」
「その顔が生理的にムカついたから」
突然のダメージに対応し切れてない臨也に対して、はしれっと言い放つ。
「そんなこと言って…、ちゃんが俺のことは好きなのは良く分かったけど」
「いやいやいやいや、今の会話のどこにそんな要素があった!?」
「ちゃんが俺を殴ったり蹴ったり轢いたりするのは愛情の裏返しだろう?」
「私ならそんな愛情は嫌だ」
「まったく、ちゃんは強情なんだから☆」
「……消 え 失 せ ろ」
顔面から鼻血を垂れ流しながらそうのたまった臨也の姿に、軽く眩暈を覚えたは、
全ての出来事を自らの手で悪夢として片付けるべく愛車のエンジンをふかし始めたのであった。
(「え、ちょ、ちゃん、本気でヤメっ……グハァッ!!」「…はぁ…せいせいした」)
何をされても君が好きなんだ!
title by---アンゼリカ