「…うっわぁ…」
ゲリラ豪雨とでも言うのだろうか、先刻まで晴れていたというのに今ではバケツをひっくり返したという言葉がそっくりそのまま適用できるほどの雨が降っていた。
水分を吸った土を水が跳ね上がるバシャバシャという音が聴覚を支配して、自分の声さえ満足に聞こえない。
の横を、きゃあきゃあと悲鳴を上げて女生徒が数人通り抜けた。全員が、思い思いの柄の傘を手にしている。
彼女等の手に握られた傘を羨ましそうな目で見て、は大きくため息をついた。
朝、ニュースで雨が降るという予報が流れていたのも聞いていたし、エルフが私に傘を忘れるなと忠告だってしてくれていたのに。
「どうして忘れちゃうかなぁ、私…」
自分自身にぽつりと問いかけてみても、答えが返ってくるはずもない。
そのまま暫くの間、昇降口の屋根に溜まっては落ちていく雨粒をぼーっと眺めていたものの、雨は止む気配も無く寧ろ段々と強くなっていっている。
どちらにしろ濡れるなら少しでも軽いうちの方が良い。
そう考えたは、豪雨の中へと踏み出した。
ざばざばと降りかかる雨で一瞬にしてびしょ濡れになるが、中身が濡れないように鞄を抱きかかえるよう前かがみの姿勢で普段の通学路を歩いていく。
傘をもった人たちが、雨にうたれることを気にせず歩いているを怪訝な様子で見つめるものの、誰も声をかけようとはしない。
全く世知辛い世の中になったものだわ、と心の中で悪態を吐いて、早く屋根のある場所まで行こうと少しだけ歩みを早めた。
そのとき、なんだかとても見覚えのある傘を差したとても見覚えのある人物がこちらに向かって歩いてくるのが目に入り、は思わず足を止める。
ちょうどの向かい側に立っていたその人物も、ちょうどに気づいたようで、一瞬だけ吃驚した顔をしたものの直ぐに走っての方にやってきた。
「マスター! こんな雨なのに何してるんだ!」
「え、や、その、エルフこそ何してるの…?」
自分が差していた傘にを入れながら、エルフは持ってきていたであろうタオルを取り出しての頭をわしわしとぬぐう。
まさかの事態に混乱気味のがエルフに向かって聞くと、エルフは軽いため息を吐きながら口を開いた。
「今日の朝ちゃんと言ったのに、傘を忘れただろ」
「う゛…」
「帰るまでに降らないならそのままでも良いかと思ったんだが、やっぱり降り出したから迎えに来たんだ」
「あ、ありがと」
エルフから傘を受け取りながら、は礼を言う。
の頭を拭いていた手を止めて、エルフはを一瞥すると呆れたように呟いた。
「…こんなに濡れてちゃ意味無い気もするけどな」
「だって、まさか迎えに来てくれるとか思っても無かったんだもん」
「だからって、普通はこの雨の中歩こうとしないだろ」
「む……」
図星を指され、不満気に口を尖らせるにエルフはふっと苦笑をもらす。
「これに懲りたら、今度からはちゃんと忘れないようにしろよ」
「でも、忘れてもエルフが届けにきてくれるんでしょ?」
「…まぁ、雨に濡れて風邪を引かれても困るしな」
「そのときはよろしくね」
「マスターは俺をあてにしすぎじゃないか?」
「あてにしてるんじゃなくて頼りにしてるの」
思ってもみなかった言葉をかけられ、エルフの動きが一瞬止まる。
それを見たは、くすくすと笑いながら「じゃあ、帰ろっか」と言うと、エルフの手をぐいと引っ張った。
手を繋ぐ意味