バクラと二人でバラエティ番組を見ながら、はうーん…と首をかしげた。
何かを忘れている気がするのだけれど、何を忘れているのか思い出せない。
うんうんと唸りながらテレビを見ているを不思議に思ったのか、バクラが「どうしたんだ」と声をかけた。

「んー、何か忘れてる気がするんだけど、何なのか分からないの」
「忘れるぐらいだからたいしたことじゃねぇんだろ」
「そりゃそうだろうけど……、こう、なんかすごいもやもやするの!」

身振り手振りを交え主張するをバクラは冷めた目で見る。
そんな視線にも気付かず、なにか思い出すきっかけを捜して部屋の中を見渡すと、カレンダーが目に入った。
そういえば3月はもう終わったから捲らなくちゃ…と考えて、は「あー!」と叫んだ。
至近距離で叫ばれたバクラが顔を顰めてを見る。

「バクラ、大変。今日はエイプリルフールなのに一つも嘘をついてない!」
「別に無理やりつかなくてもいいだろ」
「イベントごとは思いっきり楽しまないと勿体無いじゃない!」
「くっだらねぇ」

そう吐き捨て、バクラはテレビに意識をうつす。
は一瞬むっとした顔をしたものの、すぐに何かバクラを騙せるようなウソが無いか考え始めた。
「えーと、えーと……。
あ!そういえば一日限定10個しか発売されない幻のシュークリームを買えたから食べよう!冷蔵庫にあるからとってきて!」
「へぇ、そうかよ」
「うん!……って、行かないの?」
「あのなぁ…、今までの流れでオレ様が騙されると思ってんのか?」
「えー、ここは騙されるべき所でしょ」
「んな事知るか」

折角思いついた嘘を簡単に看破されてしまったは、不満気に口を尖らした。

「バクラって空気読めないよね」
「あァ!?オレ様のどこが空気読めないっつーんだ?」
「こっちはちゃんとイベントを楽しもうとしてるんだから空気を読んでバクラも乗らないと駄目じゃん」
「オレ様はそういうのが嫌いなんだよ」
「バクラの好き嫌いなんてしったこっちゃないよ」

清々しいまでに言い切ったは「だからさー、なんか嘘吐いてよー、ねー」といいながらバクラを揺らす。
最初は無視をしていたのだが、バクラが何もしないのをいい事に、
次第にヒートアップしていったはバクラにべたべたと張り付いてきた。
いい加減うざくなったバクラは「うぜぇ」と言って、をべりっと引き剥がす。

「バクラぁ、こんなにお願いしてるんだから聞いてくれたっていいじゃない?」

から上目遣いに見上げられ、バクラの心がぐらりと揺らぐ。
少しの間二人で見つめあい、最終的にバクラが折れた。

「仕方ねぇ……、なんか嘘つきゃ良いんだろ?」
「バクラってば話がはやいんだから!」
「現金な奴…」

途端にコロッと態度を変えたに、バクラが呆れたようにため息を吐く。

「嘘だったらなんでも良いんだな?」
「うん。そうだよ」
「あー、……先に言っとく。今から言うのは全部嘘だからな?」
「大丈夫!ちゃんと分かってるから!」

自信たっぷりに言い張ったに、バクラは少しの間をおいてから口を開いた。

「オレ様はテメェが大っ嫌いだ」

言ってから、バクラは自分の仕事は終わったとばかりに再びテレビに視線を戻そうとする。 けれども、視界の端での目から涙がぼろりと零れたのを見て、慌てての方を向いた。

「な、何泣いてんだ!?」
「だって、バクラがっ、あんなこと言うからっ!」
「ばっ…!嘘に決まってんだろうが!」
「嘘でも傷ついたのよ馬鹿!」
「テメェが吐けって言ったんだろ!いいからさっさと泣き止みやがれ」

自分の服の袖での目元を乱暴に拭きながら、バクラが言う。

「エイプリルフール嫌い。嘘なんかつかなくていいから前言撤回して」

為されるがままになりながらそう言ったに、バクラは苦笑しながら、
「テメェみたいにめんどくせぇ女、好きじゃなかったら一緒にいねぇよ」
と呟いた。





鹿




「めんどくさいって何よ」
「その通りだろ。おら、顔洗ってこい」
「ふーんだ。言っとくけど泣いたのはバクラのせいなんだからね!」