火蓋は切って落とされた
お礼がわりのメッセージ
タンザナイト光群
遊星とメール
ジャックと電話帳
アキちゃんと機種変
デウス・エクス・マキナの夢
秘密の隠し味
火蓋は切って落とされた
「エルフ!」
「ん?どうしたんだ、マスター」
「どうしたもこうしたも無いわよ!今すぐデッキを調整するから手伝って!」
そう言って、マスターは手に持っていた袋を逆さまにひっくり返した。
買ってきたばかりのパックがどさどさっと落ちてくる。…一体何パック買ったんだ……。
その中の1パックの封を切ったマスターが、あまりのパック数に呆れているオレに向かって
「ほら、エルフも!ぼーっとしてないでパック開けてよ」
と言った。
「あ、ああ」
慌ててオレも散らばったパックの一つを手に取って開ける。
ざっとカードを一瞥して、後でマスターが確認しやすいように種類毎に分けて置く。
ちらっと見た限りではマスターが好みそうなカードは入っていなかったな。なんて思いながら、二つ目のパックを手にとった。
「今月は厳しいから買わないんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃなくなったの!」
新しく手に入れたカードのテキストをいつもよりも真剣に読んでいるマスターにそう声をかけると、マスターは鋭い視線でオレを見つめ返してきた。
「エルフは、あのキングオブデュエリストも使ってたカードなのよ。本当はすごく強いんだから、あんな奴に馬鹿にされて黙っておけるわけないじゃない」
あんな奴、というのは先日デュエルをした相手のことだろう。
惜しくも僅差でマスターが敗れてしまったのだが、そのときに相手が言っていたことをマスターはずっと気にしていたらしい。
オレ自身は馬鹿にされることは気にならないが、それを自分の事のようにマスターが怒っていてくれることは素直に嬉しかった。
「…マスター」
「なに?」
「今度は勝つぞ」
「当たり前でしょ!」
火蓋は切って落とされた
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お礼がわりのメッセージ
「ねぇ、辞書貸してくれないかな?」
「辞書? いいよ、はい」
「ごめんね、すぐ返すから!」
「別に急がなくてもいいよー」
ぱたぱたと自分の席に帰る遊戯君を見送る。
遊戯君の机で城之内君と本田君が待っているところを見る限りでは、三人で次の授業の宿題でもするんだろう。
三人で頭を寄せ合っている姿を微笑ましく思いながら、読んでいた本に視線を戻した。
しばらくして、「ありがとう!」と遊戯君が辞書を返しに来た。
「うん、どういたしまして」
辞書を受け取りながら、どこかそわそわしている遊戯君の様子に首を傾げる。
「…どうしたの?何かあった?」
「っな、何も無いよ!
じゃあ、もうすぐ授業だし、ボク戻るね!」
「え、うん…」
丁度チャイムが鳴って、そそくさと立ち去った遊戯君を不思議に思いながら、私も席に座りなおす。
号令を終えて、何の気なしに辞書をぱかりと開き、液晶画面に浮かんでいる文字に目が釘付けになった。
お礼がわりのメッセージ
(き み の こ と が だ い す き で す)
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タンザナイト光群
「瀬人ってさぁ、」
「…なんだ」
「本っ当に青眼好きだよね」
今更といえば今更なことを、口に出してみてしみじみと実感する。
海馬コーポレーションや海馬ランドだけでは飽き足らず、海馬邸にまでも青眼の彫像を置くぐらいだ。好きじゃないわけが無い。
私の台詞に、瀬人はフンと鼻を鳴らしただけで、すぐにデッキの調整作業を続ける。
大量に積まれたカードの中で、それはそれは大事に置かれていた一枚をすっと抜き取った。
私の方をちらりと見て「絶対に汚すな」とだけ言ってきた瀬人に「汚すわけ無いでしょ」と返して、キラキラと光るカードの表面を指でそっとなぞる。
ふわり、と空気が揺れた気がして顔を上げると、青い目に白い肌をした美しい女の人が、カードを弄る瀬人を慈しむような表情で眺めていた。
彼女は私が見ていることに気付いたのか、私に向かって会釈をしてきた。
「…やっぱり綺麗だわ」
思わず漏れた呟きに、カード自体のことを言っていると思ったのか、瀬人が「当たり前だ」と返してくる。
「青眼は世界で最強かつ最も美しい俺の僕だからな」
「あー、はいはい」
偉そうに主張する瀬人に適当な返事を返して、彼女を見つめながら「愛されてるのね」と呟くと、
彼女は一瞬の間をおいてから、とても嬉しそうに微笑んだ。
タンザナイト光群
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遊星とメール
「遊星、ケータイ鳴ってたよ。すぐ切れたからメールだと思うけど」
「ありがとう。……ああ、メールだな」
「誰から?」
「龍亞だ。アカデミアのテストで100点を取ったらしい」
「へぇ!すごいじゃん!」
「ああ、そうだな」
「よーし、じゃあ今日はお祝いになにか作っちゃおうかな!遊星、龍亞くんに学校の帰りでいいから龍可ちゃんと一緒にこっちに寄ってって返信してくれる?」
「わかった。ちょっと待ってくれ」
カカカカカカカカッ(両手を駆使したメール早打ち)
「送信…。よし、送ったぞ」
「早っ!メール打つの早すぎるって!」
「…そうか?」
「そうだよ!そういや遊星のメールの返信はやたら早いと思ってたけどこういうことか!無駄に器用だな!」
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遊星は作業中に限り携帯を携帯しないイメージ。そして文字は両手打ちしてそう
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ジャックと電話帳
「おい、貴様!」
「うん? ってジャック何人のケータイ勝手にいじってんの!?」
「そんな些細なことは今問題ではない!」
「いやいやいや、全然些細じゃないでしょ…」
「それより貴様、この俺の名が電話帳に無いとは何事だ」
「え、ジャックが? うそ、ちゃんと登録してるよ」
「貴様こそ嘘を吐くな。現に乗っていないではないか」
「あ、あぁ。だってジャックはサ行のところじゃないから」
「何?」
「貸して。……ほら、ジャックは名前じゃなくて元キングで登録してるからね」
「貴様ぁぁあああああああ!!」
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その後きちんと名前で登録し直されました
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アキちゃんと機種変
「あら…携帯変えたの?」
「え、うん。前のが水没しちゃってさ。せっかくアキちゃんのとおそろいだったのに残念」
「そう…ね」
「まぁ、こっちも可愛いから気に入ってるけどねー」
「……」
-次の日-
「あれ? アキちゃんの携帯…」
「昨日買いに行ったの。私のも傷が入って汚くなっていたから」
「へぇ、そうなんだ。でも私のと一緒の買ったんだね」
「嫌だった?」
「ううん全然!むしろアキちゃんとおそろいで嬉しいよ!」
「そう。それなら良かった」
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実はおそろいに拘っていたアキちゃん
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デウス・エクス・マキナの夢
「おい、んなとこで寝てんじゃねぇ」
パン、と頭に鋭い痛みが走って、私は閉じていた目を開いた。
窓から差し込む陽の光が眩しい。どうやら、私はリビングのソファーの上で転寝していたらしい。
妙なところで寝ていたせいで痛む身体を起こして、起き抜けでぼんやりとした視界で目の前の人物を見つめて。
その姿を認識した瞬間、私の意識は一気に覚醒した。
「え、バクラ…?」
彼は確かに、消えたはずだ。だって私はその瞬間をこの目で見ている。
小さく呟いたはずの言葉は何故か彼に届いたらしく、彼は見るからに不愉快そうに顔をゆがめた。
「あぁ?オレ様が遊戯なんかにやられるわけねェだろ」
「だ、だって…確かに…」
「なんだまだ寝ぼけてんのか」
「オレ様が起こしてやるよ」そう言った彼の腕が私の頬へと触れる。その優しい感触に、そこが熱くなって、心臓の鼓動が激しくなっていく。
顔を赤くした私に、彼はニヤリと、それはもう極悪な表情で笑いかけると、いきなりぐいっと両頬を引っ張った。
「いっ…!?いひゃいいひゃいいひゃい!!」
「バーカ、何顔赤くしてやがる」
「らから、いひゃいって…!」
無理やり彼の手を引きはがして、さっきとは違う意味で赤くなってしまった頬に手を当てる。
「もうっ!何するのよバクラの馬鹿!」
「バカはテメェだ。妙なこと言いやがって縁起でもねぇ」
「う…ごめんバクラ」
確かに、消えたなんて言われて良い気分なんてするわけもなくて、素直に謝った。
バクラはそういう意図ではなかったといえ、痛みを感じることもできたのだから、これは夢じゃない。
だからきっとさっきまでの、バクラの居なくなってしまった生活こそが悪い夢だったんだ、きっとそうに決まってる。
彼は、バクラは今ここに、私の目の前に、確かに存在しているんだから。
「なんか、すごく悪い夢を見てたみたい」
「夢?」
「うん。…でも、夢でよかった。ね、バクラ」
「…あぁ、そうだな」
そう言って笑ったバクラが、なぜかとても悲しそうに見えて「どうしたの?」と問いかけようと口を開いて――
眩しい陽の光を感じて、パチリと私は目を開いた。
気づけばソファーの上で、転寝していたらしく、身体が少し痛む。
前にもこんなことがあったような気がして、けれど、決定的に何かが足りないような気もして。
大切なものが欠けてしまった喪失感に、私は涙を流した。
デウス・エクス・マキナの夢
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秘密の隠し味
「ねぇこれ、あげる。食べてみて」
そう言って、獏良くんが差し出したのは、可愛らしくラッピングされた箱だった。
「え、いいの?」
「うん」
食べてみてというぐらいだから何か食べ物なんだろう。有難く受け取って箱を開けると、そこには一口サイズのシュークリームが詰まっていた。
「なにこれ可愛い!」
「ボクが作ったんだ」
「えっ嘘すごい!お店に売ってるやつかと思った」
すごいね獏良くん!と思ったことをそのまま伝えれば、獏良くんは照れたようにへにゃりと笑う。ああくそ、可愛いな獏良くん。
可愛いしお菓子もつくれるとかあれ私女として負けてね?なんて考えて少し落ち込んでしまった私に気づくことなく、獏良くんは「大きいのだと、口のまわり汚れるかもしれないし、女の子ってそういうのいやでしょ?だから一口で食べれるように小さいのにしたんだ」と続ける。
食べる相手に気遣いもできるとかまじ獏良くんの女子力はんぱねぇ。あと私口のまわり汚れてもあんまり気にしない。あれやっぱり私負けてね?
「どうしたの?」
「ううんなんでもない。えっと、じゃあ遠慮なくいただきます」
勧められるままに、小さなシュークリームをひとつつまんで、そのまま口にほおりこんだ。
もぐ、と咀嚼すると、中から甘いクリームが溢れてくる――そう思っていた私の舌が感じたのは想像していたカスタードクリームの甘さではなかった。
正確には甘さもあったけれど、なによりも、長距離走を走ったときに喉の奥の方からせりあがってくるあの独特な味が、口いっぱいに広がっていた。
本能的に吐き出しそうになるそれを押しとどめて、なんとか飲み込む。
ごくんと嚥下して息を吸えば、不快な鉄錆の匂いが鼻を突いた。
「げほッ…う、えっ……」
気のせいだと思いたい。震える指で、箱の中のシュークリームのひとつを割ると、どろりと、カスタードクリームにはまるで似つかわしくない赤色をしたものが流れ出した。
食べてしまった。飲み込んでしまった。生理的な涙がぼろりとこぼれる。そんな私を獏良くんは笑顔で見つめている。顔は笑ってる。目は笑ってない。
ふいに獏良くんの腕が目に入った。制服の袖から白い包帯が覗いているのが見えた。
「おいしいでしょ?君のために作ったんだから」
生まれて初めて、笑っている人間に恐怖を感じた。
秘密の隠し味
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