「…二人ともまだやってるの」
がちゃ、とリビングの扉を開けた瞬間目に飛び込んできた光景に、は呆れたような声をかけた。
そんなを気にする風もなく、テーブルをはさんでにらみ合っているナムとマリクはが出掛けた時から全く変わっていない。
きっとがリビングに入ってきたことにすら気がついていないのだろう。
ははぁ、とため息をついてから二人の目線を遮るようにしてコンビニの袋をテーブルの上にどさりと置いた。
「! あ、おかえり!」
が帰ってきたことに気付いた途端に相好を崩したナムに「ただいま。」と返事をしつつ、
早速コンビニの袋を漁り始めたマリクの手をぴしゃりと叩く。
「痛い痛い…」
「勝手に漁るほうが悪い」
不満気に細められた目がマリクの不機嫌さを物語っている。
半ば睨むように見つめられ、も負けじと見つめ返す。
けれども数瞬後にその肩がぴくぴくと震えだし、とうとう耐え切れずにはふきだした。
「あはっ、そ、そんな姿で睨まれても、全然っ、怖くないんだけど!」
そんな姿、と揶揄されてマリクの小さな体が怒りで震える。
そもそも気付いたときには既にこんな幼児のような姿になっていたのであって、決して本人が望んだわけではない。
「っく…! オレだってしゅきでこんな格好してるわけじゃ…」
「しゅ、しゅきって…! 今のもう一回言って!」
「…!!」
怒りで完全に黙りこんでしまったマリクにひとしきり笑った後で、
「あはは、ごめんごめん」と言いながらは袋から買ってきたお菓子を取り出してマリクに手渡した。
完全に子ども扱いされている、そう判断したマリクはふんと吐き捨てると乱暴にお菓子の袋を破く。
そっぽを向いたままばりばりとチョコレートに貪り始めたマリクに苦笑しつつ、ナムとも自分用のお菓子の封を破いた。
「紫乃は何を買ったんだい?」
「新発売の苺大福プリン」
「美味しいの?」
「わかんない。けど新発売の魅力には逆らえなかった」
「またしょんなゲテモノ買ってきたのかよ」
「ゲテモノって…。いや、まあ美味しいものと美味しいものを足してもそれが美味しくなるとは限らないぞ!とは思うけど…」
「これは美味しいかもしれないでしょ!」と主張するだが、
「きしゃましょれで何回痛い目みたか覚えてんのか」と言われてしまえば反撃することも出来ない。
「…っ美味しいかどうかは、食べて見れば分かる!」
「俺はまじゅいに一票」
「じゃあボクはあんまり美味しくないに一票」
「ナムまで!?」
同意を得られることが無いのを悟ったのか、もういいです!と宣言するとはプリンを一口食べた。
そのまま数秒もぐもぐと咀嚼して、なんともいえない表情でごくんと飲み込む。
「どうだった?」
「別段まずいわけじゃないけど、だからといってすごく美味しいわけでも……微妙?」
とりあえず口直しをしたい、と立ち上がろうとしたを制して、代わりにナムが立ち上がる。
そのままコーヒーカップを取り出した後姿に、チョコで口をべたべたに汚したマリクが声をかけた。
「主人格しゃま、俺も」
「お前は自分でいれろ!」
「けっ、ケチだな主人格しゃまは」
ぶつぶつと呟きながら立ち上がったマリクに、台所から聞こえてるぞ!とナムの叱責が飛ぶ。
それを聞きながら、一緒に住むことになったのはほんの少し前のはずなのにまるで本当の家族のようだとぼんやり考えて、
は再びプリンを口に運んだ。
いつからか、なんて思い出すのも大変
(それほどまでに馴染んでしまった光景がとても暖かかった)
「というか、マリク口のまわりひどい。こっち来て、拭いてあげる」
「ちょ…!そんなのは自分でやらせればいいって!」
「「えー」」
「お前も!なんで子供扱いされるのは嫌がるくせにこれは拒否しないんだよ!」
※2010/09/16 加筆修正(20090326)