主人格様に起こされて、オレは渋々と目を開いた。
オレが身体を起こしたのを確認してから、主人格様はを起こしに部屋を出て行く。
まだ覚醒しきっていない頭を軽く振って立ち上がった。
部屋を出ると、主人格様がの部屋をノックしつつ声をかけている。
一度、「部屋に入って起こせばいいじゃねぇか」と言ったことがあるが、主人格様は顔を赤らめながら
「ばっ…! そんなことして良い訳ないだろ!」と言って、それを実行におこそうとはしなかった。
根気良くノックを続けている内に、中から「はーい…」というの間延びした声が聞こえて、主人格様はノックをやめる。
しばらくして、部屋の中から出てきたの目はどこかとろんとしていて、暑くも無いのに顔は真っ赤になっていた。
「おはよ…」という声にも覇気が無い。
目を丸くした主人格様が、に駆け寄り額に手を当てた。

「ぅわっ、すごい熱じゃないか!」
「熱?」
「うん。体温計持ってくるから、ちょっと待ってて」

救急箱を取りに行った主人格様をぼーっとした表情で見送ったは、オレに気がつくとへらりと笑う。

「熱だってさ。なんでだろうね?」
「昨日雨に濡れて帰ってきたからじゃねぇのか?」
「別に好きで濡れたわけじゃないよ」

微妙にかみ合わない会話をしている間に、体温計を持って主人格様が帰ってきた。
すぐに熱を測ってみると、やはり高熱だったらしく、
起きたばかりだというのに、は再び自分の部屋へと戻っていった。


「ボクは薬とか買ってくるから、看病と留守番、ちゃんとするんだぞ!」

そう言って、主人格様はバタバタと家を出て行く。
バタンと玄関が閉まり、途端に家の中がシンと静まり返った。
主人格様が戻るまで、後30分ぐらいだろうか。
どうやって時間を潰そうか…と考えているうちに、オレはいつのまにかの部屋へと足を向けていた。
「入るじぇ」と一応声をかけてから、ドアをあける。
ベッドで寝ていたが、オレに気付いて身体を起こした。

「ん…?マリク、どうしたの」
「主人格しゃまに看病しろって言われたんでねぇ」
「あんまり近づくと風邪うつるよ?」
「オレは風邪を引くほど軟弱じゃねぇよ」
「そんなこと言って。子供の免疫力って低いんだから、油断してたら痛い目見るよ?」
「大丈夫だって言ってるだろ」

いつまでもオレを子ども扱いするにむっとしながら、ベッドの端に腰掛ける。
看病と言っても具体的になにをしろと言われたわけでもないし、特に話すことも無い。
オレもも無言のまま、時間だけが過ぎるなか、ふいにが口を開いた。

「ねー、マリク」
「なんだぁ?」
「私、のど渇いた」

唐突な宣言に、一瞬面食らう。

「しょれで?」
「何か飲みたいなーって」

聞き返すと、予想通りの答えが返ってきた。
無視してやろうかと思ったものの、オレは一応主人格様に看病を任せられていたことを思い出す。
面倒くせぇと思いながらも、「ちょっと待ってなぁ」と言って立ち上がった。
コップに水をなみなみと注ぎ、部屋に戻ってに手渡す。
身体を起こし、それを受け取ったは、よほどのどが乾いていたのか一気に飲み干した。
「ありがと、マリク」と言いながら、は不自然に顔を緩ませている。

「何笑ってる。熱で脳でもやられたのかぁ?」
「いや、そうじゃなくてさー。たまには風邪引くのもいいなって思って」
「きしゃまはマゾか?」
「違うよー。だってほら、風邪引くとマリクもナムも優しいじゃん?」

「お願いだって素直に聞いてくれるし?」と言って、くすくすと笑うに、オレはチッと舌打ちをした。












「気持ち悪いって何さ」
「しょのままの意味だ。主人格しゃまが帰ってくるまで、きしゃまは寝てろ。 悪化してもオレはしぇきにん持たねぇからなぁ」
「うん。心配してくれてありがとね」
「別に心配してるわけじゃねぇ。主人格しゃまがうるしゃいから言ってるだけだ!」
「はいはい。分かった分かった」