最近、の元気が無い……ような気がする。
特に体調が悪いだとかではないみたいだし、本人に聞いてもそんなことないよと否定するから実際は違うのかも知れない。
だけど、前に比べて何かを考え込むようにしていることが多くなったし、ため息の数だって多くなったような感じがする。
原因なんて分からないけど、ボク達のせいならどうにかしないといけない。
そう思って、ボクはテレビを見ていたあいつに声をかけた。

「だから、お前がなにかしたんじゃないのか?」
「オレは何もしてないじぇ。何かしたのは主人格しゃまのほうじゃねぇのか?」
「ボクだって何もしてない」
「じゃあ別の理由でもあるんだろ」

腹が減ってるとか、と続けたこいつにそれはお前だろと返して別の理由を考える。
うーんと考え始めたボクを、こいつは鼻で笑った。

「しょんなに気になるなら、本人に聞けば良いだろ」
「本人に聞いてもはぐらかされるんだよ」
「けど、主人格しゃまがうじうじ悩んでるよりは確実だとオレは思うがなぁ」
「…」

悔しいけど、こいつの言うことももっともだ。
はぐらかされるのなら、何度だって聞けば良い。
ボクは真剣なんだって分かったらだって真剣に答えてくれるだろう。
「そうだな…やっぱりに聞いてくるよ」と言ったボクに、「しぇいじぇい頑張りな」と返してこいつは再びテレビに目を向けた。


と会ってから、時間にしてみてみればまだ少ししかたっていない。
けれどその少しの間、は得体の知れないボクたちに本当に親切にしてくれた。
まるで本当の家族のように接してくれた。
は良い人だ。だからボクはそんな良い人の役に立ちたいと思うし、幸せでいて欲しいと思う。
口にはしないけど、あいつだって同じように考えてるはずだ、じゃなきゃ僕の質問なんか無視してるだろうし。
そんなことを考えながら、こんこんとの部屋をノックする。
すぐに「どうしたの?」とが顔を見せた。

「あのさ、
「うん?」
「最近、元気が無い…よね?」
「だから、そんなことないって」

あははと笑うの目をじっと見つめると、が視線を逸らす。
やっぱり、これは嘘を付いてるときの癖だ。
それを指摘すると、は観念したように笑った。

「…バレちゃった?」
は分かりやすいから」
「それは聞き捨てならないんだけど」
「そんなことより、どうして落ち込んでるのか教えてくれないか。もしボクらが原因だったら…!」

言い募ろうとしたボクの口を「そういうことじゃないから」との手がふさぐ。

「…心配かけちゃってごめんね。別に、ナムとかマリクが悪いわけじゃないの、私が一人で落ち込んでただけだから」
「じゃあ、なんで」

その問いかけに、少しだけ黙ったあとはなにかを決心したかのように口を開く。

「……いつかは絶対に話さなくちゃいけないことだったんだけど。なんか、いざとなると急に弱気になっちゃって」

駄目だね、と呟いてからはおもむろに真剣な表情になった。
その変化に、ボクの方がびっくりしてしまう。

「イシズさんから、連絡があって」

その言葉に、ざわりと胸の奥がざわめくのを感じた。すごく嫌な予感がする。

「日本での用事がもうすぐで済むから、ナムとマリクを迎えに行きますって」

迎えに来るということは、当たり前だけどここを離れるということだ。
ボク自身もそんなことすっかり忘れてしまうほどに、ここでの生活が普通になっていたことに純粋に驚いてしまう。

「なんか、一緒に居るのが当たり前みたいになってたけど、二人ともエジプトにお家があるんだもんね。
いつかは帰っちゃうって最初から決まってたんだけど、なんか考えてみたらすごく寂しくなっちゃって」…」
「なかなか言い出せなかったんだ。ごめん」

そう言って、やっぱりどこか寂しそうに微笑んだに、ボクは何も言えなかった。







(本当に見たいのはそんなものじゃなくて)




「ほら、でもまだちょっと時間はあるみたいだし。思い出たくさん作らなくちゃね」
「…」
「落ち込んでる暇なんてないよね!よっし、頑張るぞ!」

どこからどうみたって空元気としか思えないの態度も、
怖くて指摘することの出来なかったボクはただの臆病者かもしれない。