世界を暖かく照らす太陽。心地良い風。過ごしやすい穏やかな空気。
申し分ないほどに麗らかな日曜日だというのに、私の気分は全く晴れることはない。
今日の午後、イシズさんから二人を迎えに来ると連絡があった。
覚悟はしていたとはいえ、やはりその時が目前にまで迫ってくると気が滅入ってくるのは仕方ないことで、マリクにあれほど泣かないと豪語していた割には何かあれば今すぐにでも涙腺が決壊しそうだ。

「はぁ」

一度ため息を吐いてから、無意識のうちに時計に目をやってしまう。今日になって何度この行動をくり返しただろう。
そのたびに少しずつ、でも確実に別れの時が近づいていくのが嫌なのに、どうしても時計を見ることはやめられなかった。
ふいに、後ろから声をかけられる。

、ちょっといいかな」
「ナム。片付け終わったの?」
「うん」
「マリクも?」
「オレはじゅいぶん前に終わってたじぇ」
「嘘吐くなよ、最終的に全部ボクがやったんじゃないか」
「あー…で、どうしたのナム」

放っておけば確実に始まっていたであろう口喧嘩を阻止して、ナムに話を促す。

「え、あ、あぁ…えっとその、に言いたいことがあって」
「言いたいこと?」
「うん」

その改まった様子に、何を言いたいのかなんとなく予想できた。
聞いてしまったら別れがより現実的になりそうで出来ればその言葉を聞きたくはないけれど、拒否するわけにもいかなくて私は黙って続きを待った。

「まずは、今までありがとう」
「ん…」
「ボクは、と暮らしててすごく楽しかったし、感謝もしてる」
「ちょ、そんな台詞で私を泣かせようったってそうはいかないんだからね!」
「そういうわけじゃないんだけど…ごめん、ちょっとボクの話聞いてくれる?」
「…う、うん」

やんわりと怒られてしまい、仕方なく口を閉じる。
出来る限り明るい雰囲気にもっていきたかったのに、それすらも許されないらしい。

「ボク達がエジプトに帰ったら、すぐに日本に来るなんて出来ないだろうし、そうしたら今みたいにに会える機会だって無くなってしまう。
そう思うと、どうしても居てもたっても居られなくて…」
「うん」
「でも、はそれで納得してるみたいだし……だから、その」
「…」
「…離れたくないって思うのはボクだけなのかな」

哀しそうなその顔に、思わず口を開いた。

「そっ…んなこと!私だって寂しいよ?でも、そんなの私の我侭で、今更そんなこといってイシズさんを困らせるわけには、」
だけの我侭じゃないよ。ボクだって同じ気持ちだし、きっとこいつだってそうだ」

その言葉にマリクのほうを見やると、ふんと顔を逸らされてしまう。けれども、マリクはそれを否定はしなかった。

「ボクたち三人の我侭なら、姉さんだって分かってくれるんじゃないかな」
「でも、やっぱりそんなの」

なおも言い募ろうとしたとき、マリクが苛立ったように大きく舌打ちをした。

「しゃっきから聞いてりゃうじうじうじうじ鬱陶しいじぇ」
「う…うじうじって…!」
「姉上しゃまがどうとか関係ねぇよ。きしゃまのきしゃまのしゅきなようにしゅればいいじゃねぇか」
「…まぁ、今回はボクもこいつの意見に賛成かな」

いつもは全然反りが合わないくせに、こんなときだけ二人は結託するんだから。
やっぱり好きなようにするなんてイシズさんに悪いとは思うし、良心だって痛む。それでも、本音を言えば私だって――。

。ボクは、のことを家族みたいに思ってるんだ。だから、と離れて暮らすなんてもう考えられない」
「っ…」
「諦めないで、姉さんに聞いてみようよ。まだ一緒に居たいんだ」

そんなことを言われてしまったら私は、





         (首を一度縦にふると、我慢していたはずの涙が零れた)




イシズさんから、最寄の駅についたと連絡があった。
こんな我侭通るわけない、許してもらえるはずなんてない。
ともすれば不安と焦燥に押しつぶされてしまいそうな私に気づいたのか、ナムは優しく私の肩を叩く。

「そんなに怖がらなくても、姉さんは優しい人だし、きっと許してくれるよ」

柔らかな微笑みと肩に置かれた手の温もりに、勇気を与えられたような気がした。