「買い忘れたものがあるから買ってくる。ちょっと待っててね!」

そう言って、が走り去ってから数分。
止める暇も無かったとはいえ、についていけば良かったとボクは心から後悔していた。
直ぐ近くでたむろしている女の子達が、くすくす笑う声が聞こえてくる。

「兄弟かなー?」
「そっくりだよね。ってゆーか外人さん?」
「かわいー!」

本人達は小声のつもりなのかも知れないけれど、その声はボクたちにもちゃんと届いている。
はぁ、とため息を吐いて視線を下にずらせば、いつもより数割増で機嫌の悪い闇マリクが視界に入った。
その手は、ボクの手と繋がれている。
コイツの機嫌が悪いのも、今さっきからかわいいだのなんだの言われているのも、この手が原因なんだろう。
ボクだって、好きで手をつないでいるわけじゃない。
でも、から「マリクから目を離したら何するかわかんないし、出来れば手繋いでてね!」と頼まれてしまえば断れるわけが無い。
、早く帰ってこないかなぁ。

「あのー、すいません」
「え?」

ぼーっとしているとふいに声をかけられた。
さっきまでボクらのことを話していた子たちだ。

「ここら辺に住んでるんですかぁ?」

ああ、逆ナンパか。と認識するのと同時に、仏頂面の闇マリクが突然口を開いた。

「きしゃまら、気安くオレに話かけるんじゃむがっ!」

コイツの言いたいことを理解して、すぐにその口を手で塞ぐ。
ぽかんとした顔をしている彼女らには「はは、ごめんね、コイツ口が悪いんだ」と言い訳しておいて、
むがむがと抵抗する闇マリクに「お前っ、この馬鹿!」と耳打ちする。

「主人格しゃまだってウザイと思ってるだろ?」
「言っていい事と悪いことがあるだろ。ここで揉め事起こしたら迷惑するのはなんだからな!」
「ぐっ……」

これには言い返せるはずもなく、「だから大人しくしてろよ!」と言うと闇マリクは渋々といった様子で頷いた。
それを確認してから、女の子達に向き直る。

「えーと、君達は、」
「あ、私達ここの近くの高校に通っててぇ。お兄さん、ここら辺の人じゃないですよね?」
「名前なんていうんですか?」
「その子、そっくりだけど兄弟ですか?」

矢継ぎ早に質問を浴びせられ、いつの間にやら囲まれている。
邪険に扱うわけにも行かないし、どうすればいいんだろう。
ボクが途方にくれていると、彼女達の後ろから「…二人に何か用ですか?」というの声が聞こえた。
聞こえたほうを向くと、小さなビニール袋を手に提げ、怪訝な顔をしているの姿が見えた。

「…あんた誰?」
「その二人の知り合いですけど」
「知り合い? アンタが?」
「ええ、何か文句でも? それより用がないならどいてくれません?通行の邪魔なんで」
「知り合いって、一体どういう関係なワケ?」

女の子の一人が、にそう噛み付く。
その言葉に、はうーん…と考え込んだ。聞いた子はの答えるのを待っている。
どういう関係と聞かれて、はなんて答えるんだろう。
とボクらは恋人でもないし家族でもない。(将来的になれたらいいなとは思っているけど)
それでも、が少しでもそんな感じのことを思ってればいいな…と、ボクもちょっとの期待をこめて、の返答を待った。
ボクと、数人の女の子の視線に囲まれながら、は口を開く。

「………保護者?」

その場の空気が、一気に崩れた。
自分で言って更に納得したのか、は「そっか、…保護者。うん、保護者だよね」と呟き、
どこかすっきりしたような顔で「じゃあ、帰ろうか」と、ボクと闇マリクの手を引っ張った。
未だに唖然としている女の子達の間を縫って、ボクたちはその場を離れる。
少しの間無言で歩いてから、ボクは重い口を開いた。

「……、今の」
「うん?」
「保護者って…」
「何か間違ってた? まぁ、保護者って年でもないけど、似たようなものでしょ」
「…うーん……」

ボクの曖昧な表情を不思議に思ったのか、は「そうだよねぇ?」と闇マリクに同意を求めた。

「主人格しゃまはもっと別に思われたかったみたいだがねぇ」
「もっと別に…?」

に話を振られた闇マリクは、にやにやと笑いながらそう答える。
コイツ、余計なことを…!とボクが拳を震わせている横で、闇マリクの言葉に再び考え込んだは、突然「ああ!」と声をあげた。

「分かった、兄弟だね!長女・長男・次男みたいな!」
「……そ、うだね…」
「なーんだ、そういうことかー。
あー、でもあれだイシズさんが長女でリシドさんが長男だから、次女と次男と三男か」

そう言ってけらけらと笑うの向こう側で、闇マリクが肩を震わせながらくつくつと笑っているのが無性にむかついた。