「ねー、人兄。今日の晩御飯の当番、人兄だよー」

夕方、自室で寛いでいた人識の所に、がひょっこりと顔を覗かせた。
もうそろそろ用意しなくちゃいけないんじゃない?というの言葉に人識は冷蔵庫に貼ってある料理当番表を思い浮かべて今日の日付と照らし合わせる。

「今日って16日だよな」
「え? ……あー、うん。多分そうだよ」
「今日は糞兄貴の番じゃなかったか?」

人識の思い違いでなければ、当番表の16日の項には、双識を表す鋏のシールが貼られていたはずだ。(因みにシールはがどこかから調達してきたものだ)
そのことを指摘すると、はそうだっけ?と一瞬考えて、何かに思いついたのかああ。と声を出す。

「あのね、今日双兄と軋兄帰って来れないんだって。だから明日当番の人兄と交代してもらうー…って随分前に言ってたよ」
「は!? 俺は聞いてねーぞ!」
「え、そうなの? 双兄、言っとくって言ってたけど」
「聞いてないっつーの。ああ、くそ、あの変態兄貴、帰ってきたら殺してやる」
「ところでご飯。どうする? 私が作ろっか?」
「んなことしたら糞兄貴とか大将に何言われるかわかんねぇからな、俺がやるよ」
「買い物は?」
「別に行かなくてもいいだろ。家にあるもん食っとけば」
「冷蔵庫の中、結構何も入ってなかった気がするけど」

さらりとしたの言葉に人識は眉を寄せて冷蔵庫の中身を確かめるために階下へと降りていった。
その後をも追う。
キッチンにおいてある少し大きめの冷蔵庫を開けた人識の目に飛び込んできたのは、烏龍茶のペットボトル一本と調味料類。それと小さなタッパーに入った漬物だけだった。

「……」
「あ、ほら、やっぱり無かった」
「なっ…んで、こんなに何も入ってないんだよ! おかしいだろ!」
「人兄は昨日居なかったから知らないかもしれないけど、久しぶりに曲兄が来てね。
んで張り切った双兄が料理しようとしたのを舞姉とか軋兄が全力で阻止して。
最終的に曲兄と軋兄が色々と腕をふるって豪華なご馳走を作ったの。だから冷蔵庫の中、空っぽなんだよね」

昨日はそんなことがあったのか、と人識は思いつつも脱力する。
冷蔵庫に何も無いことが分かっているのならももうちょっと早く言い出してくれれば良いものを。
妙な所で抜けている妹はきっと今の今までそれをすっかり忘れていたのだろう。
この家には(双識が嫌うので)インスタントや冷凍食品は基本的には置いていない。(弁当のおかずとかは別)
ということは何かを食べるには、買い物に行って作るか、外食をするか、出前を頼むしかないわけである。

「…めんどくせぇ……糞兄貴も居ないことだし……ピザでも頼むか」
「え、良いの!?」
「そりゃ糞兄貴が居たら色々うるせーけど、居ないんだから良いだろ。かははっ、お前ピザ好きだろ?」
「うん!」

それはそれは嬉しそうに頷く

「あ、でもお金は?」
「大将につけとけ」
「え、良いの?」
「別に良いだろ、大将だし」
「そ…そうなの…?」
「で、なんにするよ」
「普通のでいいんじゃない?」
「じゃ電話すっか」
「あ、私がする!」

人識から子機を受け取って慣れたしぐさでボタンを押していく。
何気についでにポテトとかも頼んでいるの姿を横目で見ながら、人識の脳裏に
がピザ食べたさに当番のことも冷蔵庫の中身のことも言い出さなかったんじゃないだろうか』
という考えがよぎったが、が嬉しそうなのでどうでもいいと思いなおすことにした。





適当



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