滅多に鳴らない電話が鳴るときは、いつだって悪いことしかなかった。
クラスで仲の良かった子が、外国に引っ越したとき。
大好きだった叔母が入院したとき。
父と母が、離婚したとき。
今回も――そう。
哀しすぎて、泣けない。
「え…?」
電話口の向こうから聞こえてきた内容を理解するのに私は数10秒ほど固まった。
そして、ようやく出てきた言葉はたったのこれだけ。
「嘘でしょ?でもほら、エイプリルフールまではまだまだあるよ。もー、いっくんったらタチ悪いんだから」
明るく言って返すものの、声が少し震えていた。
ドクン、ドクンという自分の心音がやけに煩く感じる。いっくんは何も言わない。
「嘘だよね?」
「……」
「何か言おうよ、いっくん」
「……」
「嘘、なんでしょ?……ねぇ、……嘘に決まってるじゃない!! 嘘って言ってよ!いっくん!!」
「―――嘘じゃない。萌太君は、死んだ」
その言葉を聞いた瞬間、身体中の力が抜けて、目の前が真っ暗になった。
気付けば、私は床に座りこんでいた。
話していたはずの携帯電話は、壁に叩きつけられて画面にヒビが入ったまま転がっている。
「萌…太……」
呟いた名前に、胸が締め付けられる感覚がした。
「また、会おうねって……明日…ね……って…言ったじゃん………萌太ぁ…」
頭では理解しているのに、心がソレを認めようとはしない。
否定して欲しかった
ナニをなんてものわからない
この気持ちも、今までのことも全部。全てを否定して欲しかった。
心にぽっかりと空いたのは、穴。
多分、一生塞がることの無い、喪失感と虚無感。
現実感の無い、痛み。
目を閉じると、萌太の笑顔を思い出す。
哀しいのに、いつでも笑っていた萌太のことを思うと、なぜだか涙は出てこなくて。
私は、心の中だけで、泣いた。
(貴方の声が聞こえた気がして振り返っても、そこは闇が広がっているだけだった)