「へ? バレンタイン?」
まさかそんな乙女ワードがアリスの口から発せられるだなんてこれっぽっちも思っていなかった私は少し大きめな声でアリスに聞き返してしまった。
慌てたようにアリスが私の口を塞ぐ。
そして周囲の様子を確認すると、ひそひそ声で話を続けた。
「、声が大きいわよ! 他の人…ていうかペーターに聞かれたら大変なことになるんだから」
「あ、ごめん。そっかー…バレンタインか…そんなのもあったね…」
「もしかして、忘れてたの?」
「そーゆー色恋沙汰とは無縁の生活だったの」
「そう…。とにかく、今年はバレンタインをしようと思って。もどう?」
「どうって聞かれても…。ビバルディは?どうするの?」
傍らで優雅に紅茶を飲んでいるビバルディに尋ねると、彼女はほんの少し考えた後で
「やってみるのも面白いかもしれんな」と呟いた。
「え、ビバルディもするの?」
「わらわは最近退屈しておったのじゃ。退屈しのぎには調度いい」
「ほら、ビバルディもこう言ってるんだし! もしましょう」
「うーん………」
別に誘いを断る理由なんて、どこにもない。
面倒だと思わないこともなかったけれど、3人で作るんだしそんなに大変ではないだろう。
「わかった。じゃ、私も作る」
軽い気持ちで承諾したことを、私は数時間後に後悔することになる。
「……疲れた」
昨日バレンタインの話をした後で、3人で材料を買いに行って、そのまま学校に戻り家庭科室で完成させた。
作ったのはカップケーキ。(最初は定番のチョコを作るつもりだったけれど、溶けそうだったので変更)
熱を冷ますために1日おいておいたので作った当初よりだいぶしぼんでいるけれど、それでもそれなりに上手に出来ているとは思う。
「作る途中で家庭科室が爆散しかけたりもしたわりには、本当にそれらしいのが出来たわね」
「…まぁ、未遂だったから、さ。ラッピングしたら中は見えないし」
そんなことを話しながら、アリスと一緒にラッピング作業を進めていく。
昨日の騒動の主な原因であるビバルディは、すでにケーキを渡しに旅立ってしまっていた。(相手は多分校長だろう)(ホワイトデーは大変なんだろうな)
「なんでも出来るからすっかり忘れてたけどさ、ビバルディって料理したことないんだよね」
「まぁ台所に立つっていうキャラじゃないわよね」
「ほんと、よく私達生きてるよね…」
「昨日のことを考えるのはやめましょう…」
なんともいえない空気になったのを察知して、アリスが会話をやめる。
丁度ラッピングも終わって、立派なバレンタインプレゼントが出来上がった。
「じゃー、渡してくるか…。アリスは誰にあげるの?ペーター?」
「まさか。ありえないわ」
冗談交じりで聞いてみると、一蹴されてしまった。
ここまで即答されると、ペーターが少しかわいそうに思えてくる。
「じゃ、誰?」
「べ、別に誰でもいいじゃない。それよりは?誰にあげるの?」
「アリスが秘密なら私も秘密。渡した後なら話してもいいよー」
そんなことを話しながら、家庭科室の前でアリスと別れた。
アリスの後姿を見送って、私もプレゼントを持って歩き出す。
向かった先は…?(反転でお相手表示)
自分の教室ペーター=ホワイト
学食ブラッド=デュプレ
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